あなたがたった一度の恋でした６【水と炎で逆ハー】

其の弐佰漆拾漆 杏寿郎と炭治郎４ ページ27

桜が義勇以外の柱を相手にするのは久しぶりだった。

蝶屋敷の手伝いをしに来ると、たまにカナヲと一緒にしのぶが稽古をつけてもらうこともあったが、本当にごく稀だ。

杏寿郎とは初めての訓練となるので、桜は緊張な面持ちで湯飲みをジッと睨んだ。

自分の掛け声で開始される訓練だが、炭治郎は何か見落としているものがあるような気がしてならなかった。



｢始めっ！！｣



炭治郎が合図を出し、すぐに攻防が始まる。

そうなると、二人の手の動きを追ううちに炭治郎のそんな考えはあっという間にどこかにいってしまった。

手の動きが見えない。

どちらの手が攻めで、どちらの手が防いでいるのか炭治郎は目で判断することができない。

桜もすごいが、それを上回る杏寿郎の動きは別格であった。

この訓練は、ずいぶんと前、最後に行った炭治郎と桜の攻防を思い出させた。

あの日手加減されていたとはいえ、桜から湯のみ一つ奪うのに費やした時間は相当なものだ。

血のにじむような努力を重ね、やっとの思いで掴んだ勝利。

だからこそ桜の早さが自分の非ではないことを、炭治郎はこれまでの訓練で知っていた。

だが、その桜でさえ杏寿郎が相手だとそう簡単にはいかないのだ。

炭治郎は固唾を飲んでその勝負を食い入るように見ていた。







◆◆◆◆◆








勝敗は桜が豪快に薬湯をかけられることで終わった。

炭治郎は思い出した。

この訓練が始まる前、何か見落としているような気がしていたことを。

それは、湯のみの中に薬湯を入れっぱなしにしていたこと。

そして、集中すると熱くなってしまうこの二人が薬湯を浴びせずに終わらせるなどと器用なマネができないことを。

これでは桜が勝手に訓練を始めたことが、完全にしのぶにバレてしまうと炭治郎は慌てふためいていた。

当然、やられた桜本人も呆然としているのだからマズイことに気が付いただろう。



「･････････」

(あの薬湯臭いから･･･匂いを消すなんてまず無理だ。誤魔化せないだろうな･･････)



放心状態の桜を見た炭治郎が誰よりもアワワワと慌てふためいている。

『バレなければ大丈夫』

もはや無理な話だろう。

そう心の声が聞こえてきそうなほどにうろたえている炭治郎をよそに桜本人は違っていた。

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