あなたがたった一度の恋でした６【水と炎で逆ハー】

其の弐佰漆拾陸 杏寿郎と炭治郎３ ページ26

｢バレなければ少しくらい大丈夫だろ｣

｢バレなければ･･････そう、そうですよね！｣



要は勝手に訓練を行ったことがしのぶにバレなければいいのだと、まるで親に隠れて悪さを企む子供のような会話だ。

だが、杏寿郎の一声で吹っ切れたのか桜はそう言った。

柱としての立場を考えるならば、本来ならあまり褒められた行動ではないのだろう。

杏寿郎は内心苦笑するとともに、しのぶに詫びをいれた。



｢ならば、反射訓練の相手を俺がしよう｣

｢はい！よろしくお願いします！｣

｢えっ！？いいんですか！？｣



炭治郎が弾かれたように声を上げた。

彼が驚いた理由は二つ。

しのぶの許可もなく本当に訓練をしてもいいのだろうかということと、訓練が桜の大っっ嫌いな反射訓練であること。

以前、反射訓練と聞いただけで、顔を歪めてこれでもかというぐらい嫌がっていたのを炭治郎は覚えていた。



｢炭治郎くんもしのぶちゃんには内緒にしてくださいね｣



だが、イタズラっ子のように笑う桜からはそんな思いは微塵も感じない。

相手が杏寿郎だから、というわけではなさそうだ。

きっと、さきほど桜が言っていた言葉が全てなのだろう。

『煉獄さんはもう訓練をしてるんですね』

あの時、一瞬だけ桜の顔が曇ったことを炭治郎は見逃さなかった。

炭治郎も、善逸や伊之助が退院しもう任務に赴くのだと知った時は気が焦ったものだ。

それを考えると桜の気持ちも理解ができた。

少しでも追いつきたい、だから大嫌いな反射訓練も気にならないのだろう。



｢もちろんです。しのぶさんには内緒にします｣



炭治郎がニッと笑えば、桜も弾ける顔で嬉しそうに笑い返した。

それに、炭治郎としてもある意味悪い話ではない。

機能回復訓練とはいえ、炎柱と水柱の継子との訓練なんてそうそう見られるものではないのだ。



｢桜、無理するんじゃないぞ。少しでも痛むようならすぐに言うんだ。いいな？｣

｢はい｣



湯のみの置かれた座卓を挟み、前に座る桜に杏寿郎は念の為にと釘をさす。

訓練が逆効果になるといけないからな、と快活に笑う杏寿郎。

もしそうなると･･････と、しのぶの怒った時よりも恐ろしい笑みを思い浮かべて桜は身震いをした。

笑えない冗談だ。



｢では、僭越ながら俺が合図を出します｣



杏寿郎と桜の反射訓練が始まる。

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