あなたがたった一度の恋でした６【水と炎で逆ハー】

其の弐佰漆拾伍 杏寿郎と炭治郎２ ページ25

｢桜は？胡蝶から散歩の許可をもらえたのか？｣



笑顔ではあるが探るような杏寿郎の瞳に桜は目を泳がせる。

杏寿郎の様子では、桜が散歩の許可をもらっていないことをしのぶから知らされている口ぶりだ。

本当のことを話したら、杏寿郎は怒るだろうか。



｢見舞いに行こうとしたが胡蝶からはまだ安静が必要だと止められてな。心配していた｣

｢ありがとうございます。さっきやっと散歩の許可がおりたので歩いてたんです！｣

｢そうか。それは良かった。君の姿を見て安心した｣



咄嗟に出た嘘だったが杏寿郎はあっさりと信じてくれた。

落ち着いた優しい杏寿郎の笑顔を見て、本当に心配してくれていたのだと知る。

そんな杏寿郎に嘘をついてしまったことに桜の良心が少し痛んだ。



｢それにしても、煉獄さんはもう訓練をしてるんですね｣



入院した後からの様子を何も聞かされてないから、こうして元気な姿を見れたことは心から嬉しかった。

だけど、自分と同じくらい･･･いやそれ以上に重症だったはずの杏寿郎のほうが回復が早いことに桜は驚きと動揺も隠せない。

桜の複雑な心境をそのまま映し出したような表情に、杏寿郎は少し苦笑を浮かべた。

杏寿郎には桜の感情が手に取るようにわかった。

人よりも遅れていることに焦っているのだろう。



｢これでも柱だからな。鍛え方も違うんだ｣



同じだと示しがつかない。

そう伝えたつもりだが、真面目な桜のことだ慰めにはなっていないだろう。

実際、桜は納得がいかなかった。

傷の治り具合など個人差もあり、みんなが同時に治るなんてことあるはずがない。

それでも先日任務に出かけて行った後輩の姿や、こうして任務に戻るために回復訓練をしている仲間の姿を見ると、どうにも一人取り残されていく感じがして。

桜はたまらなかった。



｢桜。胡蝶には秘密にして少し訓練に参加してみるか？｣

｢え？･･････でも、｣



あからさまに落ち込む桜を見かねて、杏寿郎がそう提案した。

しのぶに内緒などバレた後のことを考えると恐ろしいものがあったが、杏寿郎はそれでも桜の気が少しでも晴れてくれるならばと思った。

桜もその誘いに喜び一瞬は表情が明るくなったものの、どこか遠慮気味だ。

かなり魅力的なお誘いだが、本気で怒ったしのぶを想像すると身震いしてしまう。

思案顔の桜を、杏寿郎はまるでイタズラに誘うような言葉で誘惑する。

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