あなたがたった一度の恋でした５【水と炎で逆ハー】

其の弐佰参拾肆 無限列車編３１ ページ34

今のこの感じでは体を動かすのも辛そうではあるが、桜ならやりかねない。

もう一つ自分の体が欲しいとまで思ったのは今が初めてだ。



「俺が戻るまで動くな。いいな？」



まるで小さな子供に言い聞かせるように話しながら、杏寿郎は桜の手をそっと腕から離す。

行ってしまった杏寿郎の背中を桜は虚ろな瞳で見ていた。

本当は一緒に探しに行きたいけど杏寿郎に言われた通り少しだけ体を休めよう。

今は行っても足手まといなだけだ。

なにより今は追いかけて一緒に行くと言い出しても杏寿郎は許可を出してはくれないだろう。

それにもう任務は終わったのだ、後片付けが始まる時に動けるように体力を回復させておこう。









◆◆◆◆◆









桜に託していた車両を見て杏寿郎は感心していた。



(大きな被害はなしか。さすが桜だ)



こちらも人が襲われた形跡もない、車両脱線の際の目立った外傷もない。

炭治郎たちといい、桜といい、本当によくやってくれた。

桜に二両任せるのは酷かとも思ったが、見事に約束を果たしてくれた。

その桜が心配する炭治郎たちだが、如何せん車両同士が折り重なるように捻れているため、これ以上先に進めず確認することができない。

これは一度外に出なければ無理だろう。

きっと脱出なり上手くやってくれているだろうと今は信じるしかないが、この状態だ、無事でいる保証もない。

それに、置いてきた桜のことも気になる。

ジッとしていてくれればいいのだが。



「……………………」



桜の性格を思えば嫌な予感がしていてもたっても居ても立っても居られず、杏寿郎は急ぎ桜のいる車両に戻った。









◆◆◆◆◆









杏寿郎に言われた通り桜は待機していた。

その間も、体は休まっても気が休まることはなかった。

炭治郎たちは見つかったんだろうか。

なんともなかっただろうか。

鬼の手にかかって死んだ人はいなかっただろうか。

横転に巻き込まれて命を落とした人はいなかったんだろうか。

気がかりなことが多すぎて落ち着かない。



(煉獄さん………)



なかなか姿を見せない杏寿郎に不安は募るばかりだった。

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