あなたがたった一度の恋でした５【水と炎で逆ハー】

其の弐佰拾弐 無限列車編９ ページ12

人が四十人も消えているという問題の列車が停まる駅に杏寿郎と桜が到着した。

桜が列車に乗るのはこれが初めてだった。

噂にもなっているというのに利用者は多いようで駅の中はごった返している。



「すごい人ですね」

「そうだな。桜、帯刀しているのを警官に見つかるとマズイ。背中に隠しておくんだ」

「はい」



桜に説明しながら杏寿郎が背中に日輪刀を隠す。

刀が見つかり騒ぎにでもなれば任務どころの話ではなくなってしまう。

非公認組織である鬼殺隊の仕事は、廃刀令が施行されたせいで、なにかとやりづらくなったものだと常々思う。

桜も杏寿郎にならって日輪刀を背中に隠した。



「桜、ここで待っているんだ」

「情報収集ですか？

「いや、切符と弁当を買ってくる」

「わかりました」



ズンズンと切符売場に向かっていく杏寿郎の背中を桜は見送った。

初めての体験をする桜は乗るためには“切符と弁当”がセットで必需品だと杏寿郎の話から思っていた。



それにしても駅のホームを行き交う人々は、神隠しのような噂をまるで知らないような賑わいだ。

桜は壁に背中を預け人の流れを見ながら考えを巡らせた。

今回の鬼はどんな相手なのだろうか。

鬼殺隊の隊士を含め四十人以上も喰った鬼だ。

どんな血鬼術を使えばそのようなことが可能なのだろうか。

巧妙な手口に、しのぶと杏寿郎の話からしても、相手が十二鬼月である可能性は高いと思う。

それにしても、このところ遭遇率が高いなと桜はため息をついた。

もっとも、遭遇するだけで直接戦ったことは一度もないけど。

おばちゃんの助けになりたいと啖呵を切って来たからには頑張りたい。

これ以上、この列車に巣食う鬼や鬼舞辻無惨の好き勝手にさせたりしない。

そう強くは思っても、そいつらを相手に果たして今の力でどれだけのことができるのだろう。

桜は目を細め床を睨み付けた。

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