あなたがたった一度の恋でした５【水と炎で逆ハー】

其の弐佰肆拾壱　無限列車編３８ ページ41

邪魔立てするように桜が現れたのを見て、猗窩座の纏う空気がザワリと変わった。

猗窩座の目がスッと細められ、桜に向け四股立ちし、左脇を締め、右手を前に押し出した構えをとる。

それに気付いた杏寿郎が一歩前に出る。

それでも猗窩座の視線は桜に向けられたまま。



「殺す」



術式展開 破壊殺・羅針


猗窩座の足元に、自らを中心とした雪の結晶を模した陣が出現する。



「まずは、邪魔なその女からだ」



陣から飛び出した猗窩座から桜を守ろうと杏寿郎がさらに前に出ようとした瞬間。

桜は猗窩座を迎え撃つため牽制の構えのまま、一歩強く踏み込むと飛び出した。



「時の呼吸 壱ノ型 陽炎・鏡花水月(かげろう・きょうかすいげつ)！！」



桜の日輪刀を蒼白い炎の線が何本も纏わりつき、やがて先が矢じりの形に変化する。

その状態で柄を両手で握り締め振り上げ斜め上から振り下ろすと全ての炎の矢が猗窩座めがけ、まるで生きた蛇のようにあらゆら方向から攻撃をしかけた。

猗窩座はそんな攻撃をものともせず、拳でいくつも相殺したり、バク転しながらかわし、まるで魚雷のように追ってくる矢を回し蹴り一回で吹き飛ばして見せた。

桜はその姿を観察するように見据えている。

猗窩座が、そんな攻撃は無意味だと桜に不敵な笑みを見せた時、彼女は先ほどの場所に立っていなかった。

派手なパフォーマンスを披露しているうちに桜の姿を見失ってしまった猗窩座。

怪訝な顔で猗窩座がさっきまで桜が立っていた場所を見ていると、その顔に影が射した。



「！？」



すぐに上を見上げると、月が輝く天空をバックに桜が眉根を寄せ射るような眼差しで日輪刀を振り上げていた。

さきほどの桜の壱ノ型は自分の姿を猗窩座から隠すための囮にすぎない。

桜はその勢いのまま一文字斬りしてみせたが、ヒュンと空を斬っただけに終わった。



「っ！！」



今度は猗窩座が一瞬にして姿を消したのだ。

だが桜は見逃したわけではない。

空に逃げたのは見えていた。

着地した桜は急いで頭上を見上げた。

桜の姿を上空から捉えていた猗窩座の目が不気味に細められ、瞳は鈍く光っている。



(早く次の型を！！)



確実に目は合っているのに桜の瞳から先ほどのような恐怖心は微塵も感じられず、むしろ猗窩座を睨み付けていた。

其の弐佰肆拾弐　無限列車編３９→←其の弐佰肆拾　無限列車編３７

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す