◎やさしさ ページ5
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けたたましく部屋中に鳴り響く電子音に、思わず顔をしかめた。
「……うるさ…」
いくらそう思ったところで、自分の手で止めない限り、この音は鳴り止んではくれない。
寒さを覚悟して、渋々右手を布団の外に出す。覚悟したとはいえ一気に右手を襲った冷気に、ぶるりと全身が震えた。
まだ開ききらない目。
手探りで目覚まし時計を探す。
手にそれらしき物が当たって、
カチッ、という軽快な音ともに鬱陶しい電子音は鳴り止んだ。
「…………」
まだ、眠い。
朝には強い方だけれど、今日は駄目だ。体がだるくて、起きる気になれない。何故か?そんなの言うまでもない。祐希のせいだ。
…このバカ祐希。
と、ふと隣に目をやってから気づく。
祐希がいない。
あれ?と思いつつも、眠い頭ではさほど気にも留めなかった。トイレにでも起きたんだろう。と、そういうことにして、再び布団に潜り込んだ。
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それからまたどれくらい寝たのかは、よくわからない。だけど再び私の目を覚まさせたのは、目覚まし時計ではなかった。
「…A、」
まどろみの中に聞こえるのは、心地良い聞き慣れた声。
「A、起きて」
あぁ、祐希か。
祐希が私の名前を呼んでる。
「…起きないと、ちゅーするよ」
そう言われても、重い瞼は開かなかった。
はぁ、と溜息のようなものが聞こえて、すぐにおでこに柔らかい感触。それからだんだんとそれは降りてきて、瞼、鼻先、頬…
ちゅっ、ちゅっ、と軽い音を立てながら、キスが降ってくる。実はもう、割と覚醒していた。
でもなんだかくすぐったくて、それが心地良くて、そのまま寝たふりをしていたのだけれど。
「…A、起きてるでしょ」
ほんの少し口角が上がってしまったのを、彼は見逃さなかったらしい。
ぺち、と頬を叩かれて、仕方なく口を開いた。
「んー……なんか、きもちよくて…」
ふわふわ、ふわふわ。
今の私の頭の中を表すなら、こんな感じだ。
目は閉じているから、彼がどんな表情をしているかはわからない。でも、どこか困ったような、そんな声が聞こえた。
「……もう、知らないかんね」
その言葉とともに、優しく唇を塞がれる。唇に触れたそれは、さっき額や瞼に感じたものより遥かに熱く感じた。
「…んん、」
ゆっくりと目を開ける。
開けた視界の先にいる彼は、いつものような悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
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ぷーこ(プロフ) - あきさん» すみません、もし教えていただけるようでしたらどの作品か教えていただけると幸いです。 (2016年8月9日 18時) (レス) id: 0bb9c9012b (このIDを非表示/違反報告)
ぷーこ(プロフ) - あきさん» わざわざ コメントありがとうございます。それはそちらの作品と私の作品どちらが先に書かれたものでしょうか?お手数をおかけしますが教えていただけると嬉しいです。すみません。 (2016年8月9日 18時) (レス) id: 0bb9c9012b (このIDを非表示/違反報告)
あき - はじめまして、コメント失礼します。とある作品を読んでいたところ、この作品のあるお話と酷似しているものを見つけまして、一応ご報告をと思いコメントさせて頂きました。 (2016年8月9日 8時) (レス) id: 7970285b3f (このIDを非表示/違反報告)
ぬんぬん♪ - えっ終わり!?嘘やろ!?!? (2016年6月11日 0時) (レス) id: f5deb9fb59 (このIDを非表示/違反報告)
藍 - 完結……したのですか? 楽しみに見させていただいてたので残念です…… (2016年5月22日 23時) (レス) id: 191aa71f46 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぷーこ | 作成日時:2016年1月5日 20時