Episode:105 ページ9
Side:北斗
「んん…。」
あれ?天井がいつもと違う。
あぁ、そうか。
俺、帰ってきたんだ。
夢じゃない。
「樹…?」
樹が隣で寝てた。
「樹、樹、起きろ、樹。」
「んー…。」
樹が起きてくれないと、俺起きれないじゃん。
「じゅりー…。」
この体じゃなかったら、樹をベッドから落としてでも起き上がるけど、それは無理だから…。
“起きたら、これ押してね”
って、姉ちゃんが枕元に置いて行った、ナースコールを鳴らす。
部屋に来た姉ちゃんは、ちょっと笑ってた。
「樹いるから、起きれない!」
「北斗がそばにいるから、樹も安心なんだね。」
「なにそれ?」
「樹ね、事故に遭ってからずっと、朝までちゃんと眠ったことなかったんだよ。」
“久しぶりにこんなにぐっすり寝てるんじゃないかな?”
って、姉ちゃんは言った。
まぁ、元々樹はあんまり寝起き良くないけどね。
「樹、起きて、樹…」
「やだぁ…。」
「やだじゃないって。樹起きないと、北斗が起き上がれないよ、樹ー…。」
「北斗…?北斗だ!」
俺の名前を聞いて、すぐに飛び起きた樹。
急にそんな風に起きて、気持ち悪くならない?
「ごめん…邪魔だった?」
寝起きの掠れた声で、そう呟いた。
「平気、平気。」
たぶんホントはダメだと思うけど、別に嫌じゃなかった。
「おなか、めくるよ?」
「うん。」
自分じゃ出来ないこと。
おなかにある、“膀胱ろう”の消毒とガーゼ交換。
病院では看護師さんがやってくれたけど、家では姉ちゃんがやってくれることになった。
「うわっ痛そう…。」
あ、そっか。
樹ははじめて見るんだっけ?
「だから、痛みは感じないんだって。」
自分で言うのもなんだけど、見た目は結構衝撃的で、でも嫌な顔一つしないで、消毒とかしてくれる姉ちゃんには感謝しかないよね。
「はい、おしまい。ベッド起こしていいよ。」
「ありがと。」
「どういたしまして。北斗、自分でも確認して?」
「はーい。」
「あとはできるね?リビングにいるから、困ったら声掛けて。」
「なんか手伝った方がいいの?」
「北斗ができないって言ったら手伝ってあげて。」
「時間かかるけど、1人でできるから大丈夫。樹、ありがと。」
姉ちゃんは俺が、手伝ってほしいって言うまで、基本的には何もしない。
悪い意味じゃなくて、良い意味で。
ベッドを起したら、あとはいつもと同じように、まずは車椅子に乗る。
樹がいて、結構緊張するけど、これにも慣れなきゃね。
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作者名:浅緋 | 作成日時:2021年10月2日 22時