Episode：140 ページ44
樹のカウンセリングの後、北斗も同じようにカウンセリングを受けて…
そのあと、私と優吾も別に呼び出された。
先生には、最初からわかってた。
樹や北斗だけの問題じゃないって…。
「優吾、行こう。私たちも前に進まなきゃだよ。」
「あぁ、そうする。」
私や優吾も、前に進むために…
そうしなきゃいけない…。
*
お花を買った。
ママが好きだったお花。
花はあまり詳しくないけど、これだけはちゃんと覚えてた。
１年も経ってるから、もうそんなことしてる人はいないと思うけど…
“その場所”に、お供えするために…。
「樹…！？」
樹の足が止まって、突然その場に蹲った。
「樹、大丈夫？やめる？」
「大…丈夫…。」
そこに行くのは、すごく勇気のいる事だと思う。
「北斗！北斗、大丈夫か？」
優吾の声に振り返ると、車椅子を動かせない北斗の姿。
「ごめん、力…入らなくなった…。」
「ちょっと休もうか？」
他の通行人の邪魔にならない場所に移動する。
“その場所”まで、あと数メートル。
あの日、どんな気持ちで、この道を通ったんだろう？
数分後には、全てが変わるなんて、思ってなかったよね…。
一瞬の出来事が、全てを変えるなんて…
想像すらしてなかった。
「俺が押す。北斗、行ける？」
立ち上がった樹が北斗に掛ける。
「大丈夫、行こう。」
樹が北斗の車椅子を押して、一歩、一歩、ゆっくりその場所に近付いて行く。
こんな風にここに来るなんて、誰が想像しただろう…？
あの日、事故の原因を作ったとされるバイクの運転手は、まだ見つかってない。
そのせいか、そこには目撃者を探す看板が立て掛けられたままだった。
「あれ？誰か来てんじゃん。」
事故の遭った場所に供えられた、真新しいお花。
「さげるのもったいないね。」
「横に置いとくか…。」
「うん、そうだね。」
供えられたお花の横に、持ってきたお花とお供物を供える。
苦しかったかな…？
痛かったかな…？
“ご両親は、ほぼ即死だったと思います”
あの日、警察の人がそう言ってたから、きっと苦しむことはなかったよね。
「ここでお別れだったんだね…。」
「パパ、ママ…俺と北斗を助けてくれて、ありがと…。」
樹と北斗の気の済むまで、ここにいよう…。
「あの…」
「はい？」
「失礼ですが…１年前ここで事故に遭った…？」
「えぇ…。」
体格の良い、男の人に声を掛けられた。
誰だろう…？
手には、缶ビールとジュースが握られていた。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年10月2日 22時
