Episode:126 ページ30
Side:樹
A今から帰るよ。
Aからメールが来た。
ちょっと、ほっとした。
北斗が倒れたって、学校から連絡が来て…
“一緒に行く?”って、Aは聞いてくれたけど、待ってるって答えた。
決めたんだ。
北斗が学校に行き始めたら、俺もちゃんと一人でいられるようにするって。
だから、不安はあったけど、待ってるって。
*
「ただいまー。」
帰ってきた。
「おかえり。」
「樹、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫。」
俺は大丈夫だけど…
「ちょっと北斗…。」
北斗は、部屋用の車椅子に乗り換えたら、そのまま部屋に入っていった。
「なにあれ?」
「わかんない。車の中でも、ずっと黙ったままだったよ。」
「俺、行っていい?」
「樹?」
「俺に任せて…。」
たぶん大丈夫だから。
「北斗ー…」
「・・・・・。」
「おかえり。」
「・・・・・。」
「北斗、ただいまは?」
北斗の前に回り込んで、しゃがむ。
「…ただいま。」
あれ?北斗…?
「じゅ…りっ…」
目が合った瞬間、北斗の目から大粒の涙が零れた。
「なにがあった!?」
「なにもっ…ない…。」
「誰かになにかされた?」
「されてない…。」
「じゃあ、なんで泣くんだよ?」
昔みたいに俺にひっついて泣いてる北斗。
全然、変わってないじゃん。
「言えなかった…。」
「え?」
「ちゃんと言わなきゃいけないのに…」
「なにを?」
「自分の…こと…家族のこと…ちゃんと言わなきゃ…いけないのに…言えなくて…でもそんな自分がもっと嫌で…悔しかった…。」
“悔しかった…”
そんな風に泣く北斗にかける言葉がなかった。
俺自身、自分の経験したことを人に話せない。
「北斗、俺も言えないよ。」
だからと言って、悔しいとかそんな感情を持ったことがない。
ちゃんと話さなきゃ、言わなきゃって、そう思うだけで、心臓がバクバクして、息が出来なくなる…
人から、事故のことを聞かれるのも嫌で、ずっとそう思ってるうちに、学校にも行けなくなって、外に出れなくなった。
だから、北斗だけじゃない。
「北斗、今日学校行けた。それだけですげぇじゃん。」
一人で外に出れた。
それだけで、俺よりすげぇんだよ。
「いつになったら、泣き虫治るんですかー?」
「うるせ…。」
俺には偉そうに言える権利なんてないけど…
コイツの不安とか、悔しさとか、そーゆーのは、誰よりもわかってやれる。
だって、その為に一緒に生まれたんだから。
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作者名:浅緋 | 作成日時:2021年10月2日 22時