Episode:57 ページ9
Side:優吾
「さっぶ…。」
北斗のゴハンを見届けて、病院を出れば、辺りはすっかり真っ暗。
3月になっても、まだまだ夜は寒い…。
「あと2分。」
この辺りでは、結構有名な病院だからか、バス停が病院の敷地内にある。
家の方向に行くバスの時間まであと2分。
“あの日”は、雪のせいでバスは来なくて…
そこに停まってたタクシーに滑り込むように乗ったんだ。
警察から電話が来て、なんでかわからないけど、姉貴を迎えに行かなきゃ…って、必死にここまで来たんだよな…。
こんな風に、ここに来る日が来るなんて、あの時は1ミリも思ってなかったけど。
「お客さん、乗らないの?」
「あ、すいません、乗ります!」
ここから家までは、20分くらい。
職場まで20分って、姉貴が羨ましい。
俺の大学より近いじゃん。
*
「ただいまー。」
あれ?
まだ帰ってないの?
朝から出掛けて、この時間って…
姉貴や樹になんかあったんじゃないかって思った。
また、あの日みたいに…
どうしよう…
“不安”が、俺の心を支配し始めた時…
「「優吾!ハッピーバースデー!」」
いきなり明るくなったリビングと、鳴り響くクラッカー。
「え?なに??」
「ビックリした?」
いたずらっ子みたいな姉貴の顔。
「サプライズだよ、サプライズ。」
樹まで…
きっと姉貴に感化されたな。
「マジ、心臓止まるかと思った。」
思わず、その場に座り込んだ。
「優吾?大丈夫?」
「ちょっとビックリしすぎた。」
咄嗟に誤魔化したけど、きっと樹は、いつもこんな気持ちでいたんだろうな。
樹の苦しさが少しだけ…、わかった気がした。
「ビックリさせてごめんね?」
「別にいいよ。」
テーブルの上には、うちの誕生日の定番料理とケーキ。
「これ2人で準備したの?」
「うん、そう。優吾にバレないようにするの大変だったんだから。」
朝、起こされなかったのも、このせいだったんだなって、この時はじめてわかった。
「優吾、いつもありがと…。」
「樹?」
「これからもよろしく。兄ちゃん!」
樹がちょっと照れくさそうにプレゼントをくれた。
樹にあげたやつと、よく似たデザインのキャップ。
「これは私から。いつもありがとね、優吾。」
「マジで?いいの?」
今年の誕生日のことは、一生忘れないと思う。
両親はもういないけど…
うちには…
俺達には…
両親が残してくれた“絆”がある。
その“絆”を守る為に…
もっと強くなろう。
そう、決めた。
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作者名:浅緋 | 作成日時:2021年8月20日 23時