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Episode:56 ページ8

Side:優吾

久しぶりにめっちゃ寝た。

起きたら、昼ちょっと前。

今日、北斗のとこ行くって言ったから、これは絶対、姉貴に叱られるパターン…。

って、あれ?

「姉貴ー?」

静かすぎる家の中。

「樹ー?」

誰もいないのか?

「ん?なんだこれ?」

―――――――――――――
優吾へ

樹と買い物に行ってきます。

今日の北斗当番、よろしくね。

洗濯物、忘れずに。

夕飯介助、頑張ってね。

―――――――――――――

「人使い粗くねぇか?」

今から北斗のとこ行って、夕飯介助して帰って来いって、鬼じゃね?

しかも洗濯物もかよ?
 
樹の許しが出てないから、バイクも乗れないし。

あの事故が遭ってから、バイクに乗ったのは、姉貴とケンカしたあの日1回だけ。

樹の気持ちを考えたら、そう簡単に乗ろうとは思わなくなった。

大変だけど、それはそれで、まぁいいかなって。

あーでも、そろそろバイク乗りてぇ。

今度、樹にお願いしてみようかな。

*

「北斗ー、元気?」

入院中の弟に元気?って、自分でも“ねぇわ”って思った。

「元気だよ。なに?」

北斗って、案外クールだよな。
誰に似たんだろ?

「なにそれ?」

北斗の両手首には、リストバンドみたいなのが巻かれてた。

「おもり。リハビリのための。」

「おもり?小っちゃくね?」

リストバンドかと思った。

「これでも結構キツイんだよ?」

北斗、ちょっと怒ってる?

「わかった、わかった、そんなに怒るなって。」

人間の筋肉は、1日寝たりきりでもかなり落ちると聞いたことがある。

北斗の場合は、それが約2ヶ月だから、こんな小さなおもりでも、相当キツイと思う。

肘や肩は麻痺してないって聞いたけど、寝たきりで筋力落ちて、関節も固まってんだろうな。

「ね、見てて。」

「ん?なに?」

「ちょっと動くようになった。」

北斗の左手首が“北斗の意思”で動いてるように見えた。

「おっ!すげーじゃん。」

リハビリの効果って、すげぇって思ってた。

「ちゃんと効果出てんだな。」

「右はまだ動かないんだけどね。」

北斗を見てると、俺のケガなんて、マジでたいしたことなかったんだなって思う。

「おにぃ!」

「なに?」

「誕生日おめでとう!」

「え?あっ?」

俺、今日誕生日だ。
すっかり忘れてた。

「何も出来なくて、ごめんね。俺、ちゃんと頑張るから、それを見ててほしい。」

「ありがとな、北斗。」

北斗の前向きな言葉は、どんなプレゼントよりも嬉しかった。

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作者名:浅緋 | 作成日時:2021年8月20日 23時

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