Smile Again【2】 (ページ42)

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Episode：90 ページ42

カフェを出て、来た時と同じように中庭を通る。

「A先生っ！」

「はい？」

ふいに呼ばれて振り返る。

「翔太くん！」

私の元担当患者さんだった。

「お久しぶりです。休職されたって聞いたんで、お会いできて嬉しいです。」

「今日はどうして？」

「褥瘡が悪化して、それで…。」

褥瘡は一度できたら、なかなか治らない。

「この子ったら、何時間も時間を忘れたように絵を描き続けるんですよ。」

「お母様もお元気そうですね。その後、お困りはないですか？」

「おかげさまで…。困り事と言えば、翔太が絵を描き続けることかしら？」

「絵を描くことは、翔太くんのライフワークですもんね。」

「先生のおかげですよ。あの時、あぁ言ってもらえなかったら、今の俺は居ないですから。」

「そんなことないですよ。」

翔太くんのお母さんの視線が北斗に向いた。

「弟なんです。今年の１月に事故で…。」

その言葉に俯いてしまう北斗。

まだまだ傷は癒えないね。

「さっき伺いました、事故のこと…。」

「その事故で、翔太くんと同じように頚髄を損傷してしまって、今リハビリ中です。」

「そうなんですか…。」

「ね、北斗。頑張ってるんだよね。」

北斗の手をそっと握った。

“大丈夫だよ”って。

「原石先生がご家族なら、心強いでしょうね。」

今は頚損患者の家族同士。

でも、翔太くんの障害の程度は、全介助が必要と言われるほど重く、お母さんの苦労は計り知れない。

「あ、そうだ。母さん、あれ出して。」

翔太くんの言葉で、お母さんが車椅子のポケットから何かを取り出した。

「先生、これ…。」

お母さんから手渡されたのは、一枚のポストカード。

「個展？個展やるんですか？」

「はい！ようやく、俺の夢が叶います。」

“絵が描けないなら、死んだ方がマシだ！”

顔を合わせる度にそう言われ続けた。

「先生、良かったら来てください。」

「もちろん！必ず行きますね。」

「～～さーん、ベッドを準備が出来ましたよ。お部屋に戻りましょう。」

ナースが呼びに来て、翔太くんはお母さんと一緒に病棟へと戻って行った。

「姉ちゃんの患者さんだった人？」

「うん、そうだよ。」

「個展って言った？」

「画家なんだよ、あの人。見てごらん、綺麗な絵でしょ？」

さっきもらったポストカードを北斗に見せる。

「どうやって絵を描くの？だって、あの人…」

「口に筆を咥えて、描くんだよ。」

この出会いは北斗にとってプラスになると思った。