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Episode:77 ページ29

更に数日が過ぎた。

それでも北斗は、ずっと不安定なまま。

「これ、俺の講義の時間割。」

「時間割?」

「ここ以外は、俺が家にいるから、落ち着くまで北斗のそばにいてやってよ。」

北斗のことを心配した優吾からの提案。

「樹、姉ちゃんいなくても大丈夫だよな?」

「うん、へーき。北斗のそばにいてあげて。」

「樹…わかった。しばらくはそうする。」

そばにいても、なにも出来ないかもしれないけど…

1人にしておくより、いくらか安心だよね。

*

「姉ちゃん…。」

「ん?なに?」

「俺、どうしたらいいんだろう?」

「なにを?」

「このまま、自己導尿できなかったら、一生誰かの世話になるの?」

「そんなことないよ。自己導尿できなくても、他に方法はあるから。」

「どんな方法?」

「例えば、留置カテーテル。」

「留置カテーテル?」

「前の病院の時みたいに、ずっとカテーテルを入れっぱなしにする方法。」

そうすれば、北斗の心配事が全部なくなるよね。

「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。ゆっくり練習すればいいから。」

焦っても仕方ないし、焦ったところで何も変わらない。

「うん…。」

それくらいしか、かける言葉がなかった。

「北斗、なにしてるの?」

「リハビリ…。」

さっきからずっとテーブルの上のスポンジボールを掴もうとしている。

「でも、全然できない。」

北斗の両手は指を握った状態で固まってて、自力で開くことはできない。

だから、“掴む”と言っても、指先を使って掴むわけじゃなくて、手首の動きに連動させて挟むっていう表現が正しいかもしれない。

あれ…?ちょっと待って…。

「北斗、ちょっと見せて。」

今まで何気なく見てたけど、この時はじめて気づいたことがあった。

「なんで?もうやめにする。」

「いいから…もう一回やってみて。」

敢えて北斗からは取りづらいところにボールを置く。

「届かないよ。」

「じゃあ、ここに置くから、右手で取ってみて?」

「あっ…ごめん、落ちた。」

今まで、手首は両方ともきちんと動くと思ってた。

左手の手首は背屈と言って、手の甲側に曲げることができるけど、右手はそうじゃない。

「もういいよ、ありがとう。」

北斗が練習しても上手に自己導尿できない原因はここにあるのかもしれない。

右手首の可動域が、左に比べるとかなり狭い。

なんで今まで気付かなかったんだろう…?

もうすぐ事故から半年…。

受傷から半年の“回復期”が過ぎようとしていた。

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作者名:浅緋 | 作成日時:2021年8月20日 23時

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