Episode：05 ページ6
病院関係者に案内されて、一歩、一歩、“その場所”に近付く。
薄暗い病院の廊下は、どこまでも果てしなく続いてるみたいで…
“その場所”へ向かう足取りはすごく重たくて、そんなに遠くない距離がすごく遠くに感じた。
【霊安室】
ひんやりとした薄暗いその部屋にベッドが２つ…。
「パパ…！ママ…！」
２人はまるで眠っているみたいに横たわっていた。
眠っているみたいだけど…
２人の顔は色を失っていて…
そっと触れた手はすごく冷たかった。
「みんなでゴハン食べに行くって言ったじゃん！」
温度のないママの体を揺すって、そう語りかける。
「なん…でよ…？」
これは全部夢だ。
“悪い夢を見ているんだ。”
って思いたかった。
「早く起きなきゃ。樹と北斗の合格祝いするんでしょ？」
でも…
「早く起きてよ…！家に帰ろうよ…！」
どんなに話し掛けても返事はなくて…
冷たいママの体が“これは現実だよ”って教えてくれた。
「姉貴、やめろって、姉貴！！」
優吾に抱きかかえられるようにして、ママの体から離される。
「こんなのやだよ…。」
男ばかりの中で育った私は、両親の心配の種だったと思う。
“なんで私ばっかり言うの！？”
“お姉ちゃんなんだからって言わないでよ！”
“うっとおしい！”
“干渉しないで！”
いつもそんな風に思ってた。
思春期の頃は、パパやママにいっぱい叱られて、反抗して、また叱られて…
いつもその繰り返しだった。
厳しくするのは私の為で、それが両親の私に対する愛情だって、心のどっかでは、ちゃんとわかってた。
わかってたけど、全然素直になれなかった。
パパ、ママ、ごめんね…。
親孝行らしいことも…
まだ何にもしてあげてないよ。
お別れするには早すぎる…。
“人生なにがあるか、わからない。”
って、いつもパパが言ってた。
パパの言う通りだよ…。
人生何があるか、本当にわからない。
本当なら今頃、家族みんなで樹と北斗の合格祝いしてた。
みんなでゴハンを食べに行って、多少ケンカになったとしても、
次の瞬間には、くだらない話で笑ったりしてたはずなのに…。
こんなことが起こるなんて…
こんなに早くに両親をいっぺんに亡くすなんて、これっぽっちも想像してなかった。
パパとママがいるのが当たり前で…
その当たり前が、当たり前じゃなくなるなんて…
今まで一回も考えたこともなかった。
私はこれからどうすればいいの…？
私達、これからどうなるんだろう…？
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
