Episode：48 ページ49
「なんか、不思議…。」
空っぽになったベッドを見て、北斗が呟いた。
「入院したばっかの頃は、こんなのが永遠に続くんじゃないかって思ってた。」
今日、北斗は約２ヶ月お世話になった病院を退院する。
「ここからスタートだよ。」
退院と言っても、家に帰れるわけではなく、リハビリ病院への転院。
「リハビリ、キツいかな？ずっと寝たきりだったから、キツイよね…。」
「北斗…。」
北斗の正面に回り込んで、目線が合うようにする。
「なに？」
「北斗のリハビリは、正直かなり辛いと思う。寝たきりで落ちた筋力も回復させなきゃだし。身の回りのことを、一人で出来るようにするためのリハビリだから。」
「なんか、姉ちゃんに言われると一気に現実味が増すよね。」
嘘ついて、誤魔化しても北斗のためにはならない。
「もっとさ、こうオブラートに包んだ言い方しないの？」
「しないよ。」
「しないんだね。」
「でもね、北斗。」
「うん。」
「ちゃんと受け止めるし、ちゃんと北斗を支えるから、一人で抱え込まないで欲しい。…わかる？」
わかってほしい…
「うん。」
北斗は一人じゃないってことを…。
「お車の準備、出来ましたよ。」
「ありがとうございます。じゃ、行こうか。」
車椅子を押して、病室を出る。
“バイバイ”
北斗がそう呟いた。
*
ロータリーに着くと、北斗がお世話になった人達が待っていてくれた。
「北斗君、これからが本番だね。頑張るんだよ。」
「はい。」
ここからが本番。
家に帰ってくる為の転院。
「お世話になりました。」
病院側が準備してくれた車に乗り込む。
手慣れた様子で、テキパキと車椅子を固定してくれる運転手さん。
「あちらの病院までは、僕たちが付き添いますね。」
なにかあった時の為に、医師と看護師さんが一人ずつ付き添ってくれることになった。
「大丈夫？」
「うん、平気。なんで？」
「ううん、何でもない。」
北斗は車に乗ることに抵抗はないみたいだった。
キラキラした目で、窓の外を眺めて、
“こんなところだったんだ”
って、２ヶ月ぶりの外の世界を楽しんでいるみたいだった。
「もうすぐ春なんだね。」
大雪の日に事故に遭って、気付けば春はもう目の前…。
ここから進む道は、長く、険しい道のりかもしれない。
でも、それは…
決して絶望的なものではなく、
出口のない暗いトンネルの中を彷徨うわけでもない。
疲れたら、時々休憩して…
寄り添って、一緒に進めばいい…。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
