Episode：46 ページ47
「ほーくとっ。」
北斗は一般病棟に移った。
個室に入院しているから、家族なら比較的いつでも面会自由。
入院やリハビリに掛かる費用は、事故を起こしたバス会社が全額負担してくれることになった。
だからと言って、許せるわけじゃない。
失った物が多すぎて、気持ちが追い付かない。
それはたぶん北斗も同じ。
こちらからの問いかけには答えず、窓の外をじっと見つめてる。
北斗は心を閉ざしたまま…。
それでも優吾と交代で、毎日、北斗に会いに行こうって決めた。
樹は、北斗に会えなくなった。
“こんな体、なりたくなかった…”
樹が偶然聞いてしまった、北斗の本音。
樹は自分を責めた。
それでも樹は少しずつ前に進もうとしてる。
北斗は自分の殻に閉じこもるようになった。
どうすることが、一番いいんだろう？
「北斗、今日はさ…」
「・・・・・。」
相変わらず、無視を続ける北斗。
「人が話してる時くらい、こっち向いたら？」
あの事故が奪ったのは、北斗の身体の自由だけじゃない。
一度閉ざした心は、そう簡単には開けない。
喚かれなくなっただけでも、マシだと思わなきゃいけないのかもしれない。
けど…
やっぱりダメだ。
このままじゃ良くない…。
「北斗、こっち向きな。北斗！」
北斗の肩を掴んで、強引にこちら側に向ける。
「なにすんだよ！？」
「無視しないでよ！」
「・・・・・。」
「北斗、その態度は良くない。」
「俺に構うなって。」
「構うよ、弟だもん。弟の世話して、何が悪いの？」
「なにも…わからないくせに…」
“なにもわからないくせに”
この言葉、今まで担当してきた患者さんに、何回も言われたことがある。
その一言で、何かが吹っ切れた気がした。
目の前にいるのは、弟じゃない。
事故で頸髄を損傷した患者さんだ…。
「わかるわけないよ。私、北斗じゃないもん。」
「なら、余計なこと言うなよ！」
「ねぇ北斗、どうしてほしいの？」
「…ほっといてくれよ！」
「いつまでそうやってるつもり？黙り続けて、反抗的な態度でいれば、相手が諦めてくれるとでも思ってるの？」
北斗は頭が良いから、ちゃんとわかってるはず。
そんなことしても意味ないって。
「北斗だって、わかってない。ちゃんと受け止めるって言ったじゃん。私も優吾も、ちゃんと北斗のこと受け止めるよ。」
この言葉は噓じゃない。
「だから、覚悟決めて、北斗。」
転院するまで、あと３日。
覚悟を決めなきゃ、次に進めない…。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
