Smile Again (ページ43)

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Episode：42 ページ43

「私が担当したのは、北斗よりももっと重たい障害が残った人だったよ。」

山岳事故で怪我をした人だった。

「高位挫傷って言って、北斗がケガした場所よりも上の骨が折れちゃったんだよ。」

「前聞いた話だと、上の方って結構ヤバイんじゃないの？」

「そうだね。首から下はほとんど動かなかった。」

文字通り、寝たきりに近い状態だった。

「美大生だったんだよ、その人。」

“絵が描けないなら、死んだほうがマシだ！”

って、毎日のように叫ばれた。

「最後はどうなったの？」

「口に筆を咥えて、絵を描けるようになったよ。」

「マジか。」

「結構、難しかった。頸髄損傷の患者さん初めてだったし、めちゃくちゃ悩んだよ。」

「へぇー。じゃあさ、北斗なんて、可愛いもんじゃん？」

「まさか自分の弟が…って、全く想像してなかったけどね。北斗のために出来ることはやってみようと思う。」

「姉貴なら、安心だね。」

あ…優吾、笑った。

「布団、持ってくるから待ってて。」

「はぁ？」

「いいじゃん。今日はここで一緒に寝ようよ。」

「本気で言ってんの？」

「うん、本気。」

それぞれ年が離れてる私達は、姉弟であっても、どこか他人みたいだった。

「樹、ぐっすりだね。」

「優吾と体動かして、薬も飲んでるし、眠たいには眠たいんじゃない？」

いつか寝る前の薬も飲まなくなる日が来ればいいのに…。

「これ１本飲んだら寝るかな…。」

「早くね？まだあるよ？」

「元々、そんなに飲むつもりなかったし。」

元は昨日、優吾が残した分だし。

「ねぇ、優吾、笑って。」

「は？なに？」

「優吾の笑った顔、好きだから。」

「なに急に？照れんじゃん。てか、もう酔った？」

「酔ってないって。」

これ１本くらいじゃ酔わないって…。

「あのね、優吾…」

「うん。」

「どんなにつらくてもさ、笑おうよ。優吾の笑顔を見ると安心するんだ。私も、もう泣かない。笑うって決めた。私達が笑ってたら、きっと樹も北斗も笑える日が来るよね？」

「そうだね。」

泣いたって、パパやママは、もう帰って来ない。

どんなに泣いても北斗の体は元通りにならない。

泣いたからって、樹が良くなるわけじゃない。

だったら、もう泣かない。

“今”を受け入れるんだ。

その日、生まれて初めて姉弟並んで寝た。

北斗がいないのが、ちょっと残念だったけど…。

こんな風に並んで寝てる姿を両親が見たら、なんて言うかな？

きっと嬉しくて泣いちゃうかもしれないね。