Episode：39 ページ40
「樹？どうしたの？」
突然、樹が勢い良く起き上がった。
大きく肩で息をして…
周りを見回して、私達がいるのを確認してるみたいだった。
「樹、大丈夫か？おい！」
すぐに優吾が駆け寄って、樹の様子を確かめる。
「すんげー汗だぞ。それにその手、どうしたんだよ！？おい！」
優吾の問いかけに答える代わりに、樹の肩が更に上下に大きく動いた。
「優吾、ダメ。」
「え？」
「樹ー、どうしたの？」
まだまだ寒い季節なのに、樹は汗びっしょりで、手のひらには血が滲んでいた。
「樹、怖い夢見たの？」
「ゆ、め…？ゆめ・・・？」
虚ろな表情で小刻みに震える樹。
「大丈夫、怖くないよ。お姉ちゃんもお兄ちゃんもいるよ。」
怖い夢を見て、飛び起きて…
今の樹はまるで小さな子供。
「樹、こっちおいで。優吾、タオルと樹の着替え持ってきて。これじゃいくら樹が丈夫でも風邪引いちゃうよね。」
そのまま樹をソファに座らせる。
「手、痛そうだね。ちょっと見せて。」
爪が食い込んで血が出るほどの怖い夢って、一体なんだろう？
優吾が着替えを取りに行ってる間に救急箱を準備する。
「ちょっと沁みるよ…。」
「っ…！！」
樹は強がって、滅多に弱音を吐かない。
でもさ、つらいときは、つらいって言ってほしい…。
「はい、おしまい。」
「・・・・・。」
また傷付けないようにと巻かれた包帯をじっと眺めてる。
「はい、タオルと着替え。」
「汗拭いて、ちゃんと着替えてね。」
そんなに我慢しなくてもいいのに。
「ついでに姉ちゃんに爪切ってもらえよ。」
なに言ってんの？この人。
飲んでないのに、酔ってるの？
「・・・・・。」
無言で差し出された、樹の大きな手。
「爪、切るの？」
「うん…。」
振り絞ったみたいに弱々しい、小さな声。
「飲んでるから、深爪になっても知らないよ。」
アルコールの入った状態じゃ、自分の爪だって切らないよ。
「…やだ。」
「じゃあ、自分で切る？」
「やだ…。」
こんな時の樹は、ホント小さい子供みたい。
「切るよ？いい？」
切り過ぎないように細心の注意を払って、樹の爪を切る。
人の爪を切るって、結構緊張するんだよね…。
「はい、終わり。」
これでしばらくは大丈夫だと思うよ。
「なに？」
不安な顔した樹が、
“部屋に戻りたくない”
そう言ってるみたいで、
「今日はそこで寝ちゃおうか？優吾と３人で。うん、そうしよう。」
“部屋に戻って寝なよ。”
とは、言えなかった。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
