Episode：37 ページ38
現在の時刻…午後９時。
北斗の夕飯を介助して、紹介状と診断書を待って、帰宅したら、この時間。
「ただいまー。」
あの事故があってから、こんなに長時間、家を空けたのは初めてだった。
「しっ。樹、寝てるから。」
和室で眠る樹には、きちんとブランケットが掛けられてた。
「なにかあったの？」
こんな時間に樹が寝ちゃうなんて、珍しい。
「いや、別に。ゴハンまだっしょ？」
「うん。」
「すぐ食べれるようになってるよ。」
優吾が食事の支度をしてくれたことに驚いた。
「優吾は食べたの？」
「さっき樹と食べた。あいつ、ほっといたらホントに何も食わないね。」
樹にもちゃんと食べさせてたことに、更に驚いた。
「いただきます。」
「はい、どうぞ。」
「優吾、料理上手なんだね。」
優吾の作ったゴハンは、どこかママの作ったのと似て、優しい味がした。
「そう？あのさ、それ食べたら、俺の話、聞いてくれる？」
姉弟って不思議…。
「わかった。私も優吾に話さなきゃいけないことあるし。」
「とりあえず、風呂入ってくる。ゆっくり食べてて。」
あれ？気のせいかな？
「優吾…」
「なに？」
「ううん、何でもない。早くお風呂入っておいで。」
優吾が足を引きずっているように見えた。
*
「姉貴…昨日はごめんね。」
お風呂から戻って来た優吾は、席に着くなりそう切り出した。
「気にしてないよ。私の方こそ、ごめん…。優吾の気持ち、全然考えてなかった。」
優吾だけが悪いわけじゃない。
「俺さ、姉貴の言う通り、ずっと逃げてたんだよ。北斗に障害が残るってわかった時も、樹の病気がわかった時も。もちろん自分がケガした時もそうだった。でもさ、逃げてても何も解決しないって、わかった。」
「そう…。」
「今日１日、ずっと樹と一緒にいて気付いた。俺、あいつに結構ひどい事言ったのに、樹はずっと俺のそばにいた。ホントは怖いのに、俺と一緒にアパートまで来てくれてさ。樹は今、俺達がいれば安心で、その安心がずっと続けば、樹はちょっとでも良くなるんじゃないかって思った。」
「優吾？」
「姉貴の助けになれるかは、わかんないけどさ、こっちに戻って来ようと思う。大学もここから通う。バイトは辞めるけど、いいかな？」
「優吾が決めたなら、反対しないけど、本当にいいの？」
「いいよ。もう決めた。今大事なのは、家族だから。」
今日１日で優吾に何があったのかは、わからないけど…
優吾の気持ちがすごく嬉しかった。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
