Episode：34 ページ35
Side:樹
優吾が作ってくれた卵雑炊は、ママがいつも作ってくれたやつと、同じ味がした。
「ちゃんと食えたじゃん。」
優吾が褒めてくれた。
なんか、嬉しかった。
いつもより食べたけど、気持ち悪くはならなかった。
「樹、色々ごめんな。」
「気にしてないよ。迷惑かけてるのは、ホントだし。」
昨日のあれは優吾の本心じゃない。
優吾、泣いてた。
優吾が泣いてるの、はじめて見た。
「樹はどうしたい？」
「わかんない…。」
どうしたいかなんて、わからない。
こんなわけのわかんない病気になって、怖くて、苦しくて、何もできない。
「ちゃんと考えて。樹の気持ち、教えてよ。」
でも、俺は…
「優吾もAも、北斗もみんな一緒がいい。」
みんなが一緒にいれば、きっと怖くない…。
「そうだよな。」
*
優吾の提案で、優吾のアパートに行くことになった。
あの日から、車に乗れなくなった。
乗ろうとすると、体が震えて、息が出来なくなる。
“大丈夫”
そう言い聞かせて、乗ってみたこともあるけど、ドアが閉まった瞬間に、気持ち悪くなって吐いた。
あまり外にも出なくなったから、どこかへ行くのも久しぶり。
電車に乗るのも、久しぶりだ。
平日の昼間。
電車はあまり混んでないけど…
周りの視線が怖い…。
「ほら、これ被ってろ。」
優吾が自分のキャップを貸してくれた。
優吾はやっぱ優しい。
優吾のキャップのおかげで、周りの目が少しだけ気にならなくなった。
「優吾のアパート行くの、初めてじゃん。」
優吾は俺と北斗が中学生になった年に一人暮らしを始めた。
「そうだっけ？」
「散らかってる？」
「一応キレイにはしてる…つもり。」
「つもりって、なに？」
優吾の部屋は、思ってたよりもキレイに整頓されてた。
「もう引っ越すから、樹が来んのもこれが最初で最後かもな。」
引っ越す？
優吾、やっぱり…
「樹、俺さ、実家戻るわ。」
優吾が何を言ってるか、よくわかんなかった。
「俺さ、姉貴に言われた通り、今まで色んなことから逃げてた。」
でっかいカバンに次々と服を詰めながら、優吾が言った。
「ケガして、サッカー辞めた時もそうだったし…。」
「だって、ケガ酷かったじゃん。」
優吾が練習中のケガでサッカーを辞めたのは、確か高２の時。
「別に復帰できないケガじゃなかった。でも、つらくて、どうでも良くなって、逃げた。」
“もう逃げない”
独り言みたいに、優吾が言った。
俺も…
逃げたくない…。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
