Episode：33 ページ34
Side:優吾
最近、酷いことしてばっかなのに、樹は俺のそばから離れようとはしなかった。
「樹、腹減らないの？」
気付けば、もう昼過ぎてた。
「別に…。」
"ほっといたら、１日なにも食べない"
って、姉貴が言ってたっけ。
樹に何か食わさなきゃ。
って言っても、俺の胃もガッツリ食えるほど元気じゃない…。
とりあえず冷蔵庫を開けてみる。
「おっ、卵あるじゃん。ネギもあるし。」
雑炊だったら、俺も食えるかな…たぶん。
一人暮らしも３年経つと、料理もある程度できるようになる。
「樹ー、飯できたぞ。」
「・・・・・。」
なに、その反応は？
「食べたら、気持ち悪くなるから…。」
つまり、食べたいけど、食べられないってことか？
「消化にいいから、大丈夫だって。ちょっとだけでも食えって。」
「…いただきます。」
こうやって、樹に何か作って食わせるって、はじめてかもしれないな。
「うまっ…。」
「良かった。無理しなくていいからな。」
「ママのと同じ味がする。」
そう言いながら、ちゃんと食べてる樹の頭をわしゃわしゃってしてやった。
「優吾は食べないの？」
「食べるよ。いただきます。」
樹は口が立つし、生意気な奴だなって思ってたけど、こうやってよく見ると、まだまだ幼い顔してるし、案外可愛いなって思った。
「樹…色々ごめんな。」
「気にしてないよ。迷惑かけてるのは、ホントのことだし…。」
100％、俺が悪かった。
「樹はどうしたい？」
「わかんない。」
「わかんないじゃなくて、ちゃんと考えて。北斗と一緒に暮らしたいとか…。」
「なんで、そんなこと聞くの？」
「俺が子供の頃ね、父さんと母さんが言ってたんだ。“大変な時は姉弟みんなで力を合わせなさい”って。それなのに俺は、姉ちゃんの意見も、樹や北斗の気持ちも聞かなかった。ちゃんと聞かなきゃいけなかったのに…。」
「優吾もAも、北斗もみんな一緒がいい…。」
「そうだよな。」
樹は、もうこれ以上家族の誰も失いたくないんだ。
誰かが、急にいなくなるって言う不安が樹を苦しめる。
「樹、これ食ったら、ちょっと付き合ってくんない？」
「どっか行くの？」
「俺のアパート。いい？」
樹を苦しめるものを取り除いてやるとしたら、たぶんもうこれしかない。
「でも車、無理…乗れない。」
「電車は？」
「へーき。でも、バスも無理…。」
「電車で行くから、安心しな。」
俺は決めた。
もう逃げない。
ちゃんと守ってやらなきゃ。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
