Episode：32 ページ33
「こんな体…嫌だ…。」
腕の中で、泣き続ける北斗。
「嫌だよね。つらいよね、北斗…。」
ずっと我慢してたんだと思う。
パパとママのことを聞いたときも…
変わってしまった自分の体のことを聞いたときも…
物分かりのいいフリをして、自分の感情に蓋をした。
本当はこうやって、大声で泣き叫びたかったはずなのに。
「何もわかってあげられなくて、ごめんね。」
“受け入れろ”
なんて、言葉では簡単に言える。
本人にとっては、それがどれだけ苦痛かわからない。
事故や病気で、今まで通りに出来なくなってしまった人を何人も見てきた。
“一緒に頑張りましょう”
って、教科書通りに励ましてた。
ううん、励ましてたつもりだったんだ。
北斗にしてあげられることは、何もないのかもしれない。
ましてや、代わってあげることも出来ない。
作業療法士なんて資格を持っていても、この子の前では、無力だ…。
「お薬、準備しますか？」
「いいです…。ありがとうございます。」
今は鎮静剤はいらない。
「消毒液とガーゼと絆創膏貸してもらえますか？あと、弟をベッドに上げるのを手伝ってください。」
車椅子からベッドなら、ギリギリ行けたかもしれないけど、床からベッドはさすがに無理。
すぐ恰幅の良い男性看護師が現れて、北斗は簡単にベッドに戻された。
ここからは、ちょっとだけ北斗と２人きりにしてもらう。
「ほっぺ、消毒するよ。ちょっと沁みるかもね。」
ベッドから落ちた拍子に顔を擦りむいた北斗。
可愛い顔が台無しじゃん。
「ごめん…ね…。」
「なんで謝るの？」
北斗は小さい頃から、すぐに謝る。
樹が叱られてるのに、北斗が謝ってたこともあるくらい。
「北斗さ、“ごめんね”は、なしにしよう。」
「でも…」
「“ありがとう”って言えるようになろうよ。」
ちょっとずつ…
「これから北斗は、たくさんの人の助けが必要になるんだよ。その度に、ごめんねって言ってほしくないから。助けてもらったら、ありがとうって、言えるようになってほしい…。」
ちょっとずつ、前に進めばいい…。
「でも、まずは私から北斗に、“ありがとう”だね。」
「なんで？」
「泣いてくれて、ありがとうでしょ。それから、ちゃんと気持ちを伝えてくれて、ありがとう。」
でも、やっぱ一番は、これ。
「北斗、生きててくれて、ありがとう。」
とんな姿でも、北斗は北斗。
大切な、大切な弟。
「ありがとう、北斗。」
もう１回、北斗を抱きしめた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 318人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
