Episode：25 ページ26
Side:樹
わかってる。
やっちゃいけないって…
Aや優吾が悲しい顔するから…。
わかってる…
わかってるんだけど…
「っ…！！」
一本の筋から、赤い血が滲む。
こんなの痛くない…
痛くない。
痛いのは、心…。
心が痛い…。
もう一度、手首に刃を当てる。
「樹！いい加減にしろよ！！」
優吾…？
「離せっ！！」
「離さねーよ！お前、毎日、毎日ふざけんなよ！なんでこんなことすんだよ！？」
「わかってる…。」
「はぁ？わかってる？だったら、なんでやるんだよ！こんなことしちゃいけないって、わかってんだろ！？」
「わからない…。」
「お前、言ってることが支離滅裂だぞ？」
あの日から、全部がぐちゃぐちゃだ。
何度も、何度も、考えたけど…
全然わからない。
パパとママのこと…
北斗のこと…
考えれば、考えれるほど、わからなくなる。
難しい数学の公式を解くより、何倍も難しい。
頭の中がぐちゃぐちゃで、破裂しそうだった。
「わかんない！わかんないんだよ！」
俺の腕を掴んでいた優吾の腕を勢いよく振り払う。
「お前！こっちが本気で心配してやってんのに、ふざけんなよ！」
「優吾にわかんのかよ！？全部、俺のせいじゃん！」
「樹…？」
「全部お前の…、樹のせいだって言えよ！！お前がいたら、迷惑だって言えばいいだろ！？」
「そうじゃ…ねぇだろ？」
優吾の手から、力が抜けた。
全部、俺のせいだから…
“全部、樹のせいだ”
って、罵られた方が良かった。
”お前なんて、迷惑だ”
って、言われた方が何倍も楽だ。
けど、Aも優吾も、そう言ってはくれない。
「ねぇ、優吾。」
「なんだよ？」
「俺、なんで生きてんの？」
「・・・・・。」
その質問に答えはなかった。
教えて欲しかった…。
*
帰ってきたAと優吾がケンカしてる…。
俺のせい。
俺のせいで、家族が壊れる。
そんなん嫌だ…。
こんな時、パパとママがいたら、
“姉弟なんだから、仲良くしなさい”
って言って、２人のケンカを止めるのに…。
でも、俺には２人のケンカを止める権利なんてない…。
こんな時、北斗がいたら、何て言うだろ？
“樹、しっかりしろよ！”
って言うかな？
呆れて何も言わないか…。
「樹、傷見せて。消毒するから…。」
「・・・・・。」
Aに…姉ちゃんにこんな悲しい顔させたくないのに…。
それも出来ない。
「片付けるね…。」
こんな自分が嫌だ…。
もう…
消えて…しまいたい…。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
