Episode：21 ページ22
Side:優吾
A樹のことで話があるんだけど…、今日こっち来れない?
久しぶりに来たメールがこれ。
そんなメールが来ることなんて、滅多にない。
バイトを早退して、実家までの道を急いだ。
「ごめん、遅くなった。」
明らかに疲弊した姉貴の顔。
「バイトは？大丈夫なの？」
俺の心配より、まずは自分の心配した方がいいんじゃねぇの？
「あぁ、大丈夫。で、樹は？」
肝心の樹はリビングには居なかった。
「そっち。」
「寝てんの？」
樹は、和室で丸くなって横になってた。
「どうにもならなくて、薬飲ませて、寝かせた。」
薬？
どうにもならないって、なんだよ？
「樹…ずっと寝れてなかったんだって。」
「何があったの？」
姉貴から樹に何があったか、全部聞いた。
「それで病院に連れて行った。PTSDだって。それだけじゃない、不安障害やパニック障害も…。」
淡々と話しているけど、朝からずっと大変だったんだろうって思った。
「病院でも、話してる最中に、パニック起こして、過呼吸になって…」
「どうすれば？」
「事故を連想させること、本人が不安に感じることは、なるべく避けてくれってさ。樹、事故のこと全部思い出して、一人になるのが怖いって…。」
“樹の心に、大きな傷が出来た。”
って、姉貴は言った。
「北斗がああなったのも、パパとママが死んじゃったのも、全部自分のせいだって思ってる。」
「それは樹のせいじゃないじゃん？」
事故は樹のせいじゃない。
「でも、樹はそう思ってる。だから、苦しいんだよ…。」
「優吾、今の樹からは目が離せない。」
「は？なんで？」
「樹の腕…見てみて。」
言われるがまま、眠っている樹の左手の袖をそっと捲る。
「なんだよ、これ…？樹が自分で…？」
樹の細い腕にあったのは無数の傷痕。
「腕だけじゃないよ。」
そう言って、姉貴は寝ている樹の髪をかきあげた。
樹の右耳を覆うように貼られたガーゼ。
「ピアス、右耳は１つしか開いてなかった。私が開けたから、ちゃんと覚えてる、でもさっき見たら、増えてた。でも、新しく開けたとこは、全部化膿してて…もうさ、こうなるとピアスじゃなくて、ただの自傷行為だよね…。」
“優吾、見てみて！”
“お前、まだ中学生だろ？”
“姉ちゃんとおそろい。カッコ良くね？”
って、嬉しそうに見せてきたのに。
心が痛いから、その代わりに自分を傷付けると聞いたことがある。
文字どおり、今の樹は、身も心もボロボロだ。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
