Episode：20 ページ21
「ちょっと前にさ…」
ソファの上で膝を抱えたまま、樹は静かに話し始めた。
「さっきのとこで、事故があったんだ。」
「あっ…」
数日前、樹が慌てた様子で帰宅したのを思い出した。
「その日から…また家族の誰かが居なくなったら、どうしようって。そう思うと家を出るのが怖くて…、でも…そんなこと言えなくて…」
樹の目から涙がこぼれた。
「あの日、北斗とケンカになって…パパに叱られた。ホントはわかってた。ちゃんと、謝らなきゃって。でも…でも、言えなくて…そしたら、事故でパパとママ死んじゃって…」
「樹…。」
「ほくっ…北斗も、北斗っにも酷いこと言ったのに、アイツ俺を庇って、あんなっ…になった。全部、俺のせいっ…。ちょっとだけ、ほんの一瞬だけ、ウザいから、いなくなっちゃえって…」
「もういい！樹、もういい！」
呼吸の荒くなった樹の話を慌てて遮った。
「俺のせいだ…俺の…俺の…。」
「ちがう…！樹のせいじゃない。」
“俺のせいでパパとママは死んだ”
って言おうとした樹。
「樹、ごめん。何も気付いてあげられなくて、ごめんね…。」
樹だって、苦しかったんだ。
“事故のショックで、PTSDを発症するかもしれません。”
ふと、あの時の医師の言葉が過った。
樹はあの医師の言った通り、PTSDだと思う。
泣き疲れて眠ってしまった樹を起こさないように、そっと立ち上がる。
「確かここにしまったはず…。」
あの日、病院でもらった１枚のカード。
「あった。やっぱり…。」
“心療内科”
カードには、そう書かれていた。
でも、今の状態の樹をここに連れて行くのは、無理だ。
今の樹は、車に乗れないし、きっと一人では通院出来ない。
仕事用の手帳を取り出して、名刺を探す。
職業柄、カウンセラーと話す機会も多い。
すごく信頼できる先生が１人いることを思い出した。
ちゃんと患者さんの立場に立ってくれるような先生だった。
迷わず、名刺に書かれた連絡先に電話を掛けた。
樹のことを伝えると、今日の午後なら、空きがあるから、可能なら連れて来てほしいとのことだった。
“これでいいの？”
電話を切った後、一気に色んな感情に支配された。
でも…
「なにこれ…？」
樹の手首に残る傷。
樹の心は、とっくに限界だったのに…
だけど、心配掛けないように、ずっと我慢してたんだ。
“忙しい”って言い訳して、樹のことちゃんと見てなかった。
急遽、仕事を休みにして、樹をカウンセラーの元に連れて行った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 318人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
