Episode：19 ページ20
優吾がアパートに戻り、樹と２人での生活も２週間が過ぎた。
朝、樹を送り出してから、一通りの家事をして…
早番の日は仕事が終わってから、遅番の日は仕事の前に北斗の病院に行った。
今まで、ほとんどママに任せていたから、正直大変で、樹とゆっくり話をする時間なんて取れなかった。
何も言わない樹のこと、心のどこかでは、大丈夫だって過信してたのかもしれない。
樹はずっと助けてほしいって思ってたのに…。
「樹ー、そろそろ起きないと遅刻するよ！樹ー！」
元々、朝が弱い樹だけど、ここ最近さらに酷くなった気がする。
「わかってるよ！」
「具合悪いの？休んだら？」
今日の樹、いつもと違う…。
「うるせぇな。大丈夫だよ。」
「じゃあ、いってらっしゃい。」
「・・・・・。」
無言で出て行った樹。
“なにかある”
漠然とそう感じたけど、どうすることも出来なかった…。
*
家を出ようとすると、カバンの中のスマホが鳴った。
「樹？忘れ物かな？」
表示されたのは樹の名前。
「もしもーし？」
『姉ちゃん…』
酷く怯えた樹の声。
『…たすけて…』
「樹、今どこにいるの？」
その問いかけに答えはなくて…
「今どこ？ねぇ…！」
電話の向こうから、微かに電子音が聞こえた。
「今、行くから、そこで待ってて。」
通学路に電子音が鳴る信号は一つしかない。
きっと樹はそこにいる。
でも、どうして…？
*
「樹…？」
樹は歩道の隅でうずくまっていた。
「樹、大丈夫？」
「姉ちゃん…？」
顔を上げた樹は青ざめていた。
「家に帰ろう。立てる？」
樹を抱えるように立ち上がらせる。
家までは10分もかからない距離だけど、物凄く遠く感じた。
「まだ顔色悪いね。着替えて、少し横になった方がいいよ。」
「・・・・・。」
何かを言いたそうにこちらを見つめる樹。
「リビングにいるから、何かあったら呼んで。」
樹の部屋を出て、リビングに戻る。
あんなに怯えて、一体なにがあったんだろう…？
「あっ！」
樹、もしかして…？
すっかり忘れていたことを思い出した。
「ここに居ていい？」
数分も経たないうちに、樹はリビングに現れた。
「樹…どうしたの？何があったの？」
ソファの上で膝を抱える樹に問いかける。
「なんでも…ない…。」
なんで隠すの？
「樹、ちゃんと話して…。」
話を聞いても何も解決してあげられないかもしれない。
「ちゃんと聞くから。」
役に立たなくても、何も聞かないよりは何倍もマシだ。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
