Prologue ページ1
「
気持ちよさそうに寝息を立てている、その主をそっと揺らす。
「・・・・・。」
静かに目を開けて、こちらをじっと見てる。
ぐっすり寝てるのに起こすのは可哀想。
このまま寝かせておけばいいのでは？
この状況を見た人は10人が10人、同じ事を言うと思う。
こうして起こしている私でさえも、そう思っている。
でもね、起きた時に誰もいなかったら、それはそれで大変なんだ…。
「…あさ？」
掠れた声で、そう呟いた。
「うん。ごめん、一回起きて。もう出かけるから。」
「・・・・・。」
返事の代わりに小さく頷いた。
「あんまり寝れなかった？」
「…大…丈夫…。」
あ、また嘘…。
顔色も良くないし、素直になってくれたら、いいんだけどな。
「準備できたー！」
玄関から北斗の声が響く。
「ごめん、ちょっと待ってて…。」
樹の不安そうな視線が刺さる。
「樹…、北斗を送ったら、すぐに帰ってくるから。ね？」
樹は再び布団にもぐり込んだ。
その行動は、不安で仕方ない樹の精一杯の強がり。
「じゃあ、行ってくるね。」
布団にもぐり込んだ樹をぽんぽんって撫でて、家を出る。
「北斗、おまたせ。」
すぐに帰って来るから、大丈夫だよ。
*
北斗の車椅子を押しながら、朝の街並みを歩く。
「樹、今日はダメな日？」
「かもしれないね。」
「樹が治る、魔法の薬があればいいのにね。」
「そうだね…。」
「そんな薬があったら、まずは俺の身体を治してほしいかな…。」
北斗の言う通り、そんな魔法の薬があればいいのに…。
「北斗…？」
今日は登校時間がいつもより遅いのか、近所にある高校の生徒と何度もすれ違う。
その光景から目を逸らすように俯いた北斗。
同世代の元気な子達を見るのは、まだ辛いよね…。
樹や北斗の、本当の心の痛みを完全に理解しているわけじゃない。
あの日…
あんな事さえなければ…
今頃、樹や北斗も友達と笑いながら、元気に学校に通ってたかな？
目の前で俯いている北斗を見ながら、ぼんやりとそんなことを考える。
「バス…来たよ…。」
「いってらっしゃい。」
スクールバスに乗り込んだ北斗を見送る。
いつの間にか、当たり前になった日常。
あの日までは、知らなかった。
こんな何でもない日常が、すごく大切だって…。
あの日から、もうすぐ１年。
２人の
あの日…
あの悪夢のような出来事は、
私たちのすべてを変えた。
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作者名：浅緋
| 作成日時：2021年7月21日 23時
