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＿＿茶辺さんは俺の実家の近所にある道場の先生で、俺の武道の先生でもあった。奥さんは病弱だったが、夫婦仲睦まじく暮らしていたはずだ。
しかしある日二人共行方不明になり、そのまま姿をくらましたんだ。
記憶が正しければ、茶辺さんは能力者ではなかったはずだ。
紫「……なんで、なんであんたが、能力者になって、俺の家族を殺した？」
「それが俺の仕事だったからだよ。俺らの存在に気づいたお前の父親を殺せ、とね。
……守るものがあると人は強くなる、と言うけれど、俺はそれは違うと考えている。守るものがあればあるほど、人は弱くなる。俺も、君の父親もそうだった。お前たちを庇って……馬鹿な男だ」
紫「……人の弱みに漬け込むなんて、昔のあんたは、闘いに真正面から向き合ってたあんたはどこに行った」
「俺は俺のしたことを正当化しようとは思わない。俺はそれだけの事をしてきた。しかし、だからこそ、もう後戻りは出来ないんだ」
紫「何があんたを……そこまで追い詰めた」
「……さっきも言ったろう。"守るもの"があればあるほど、"人は弱くなる"と」
茶辺さんの言葉をそこまで聞いて、ピンと来るものがあった。
紫「まさか、奥さんが……？」
茶辺さんは俺の問いには答えず、再びにっこりと機械のような笑みを浮かべた。
「さあ、お喋りは終わりだ。お前は俺に復讐をしたいんだろう？ならば、全力でかかってこい」
紫「言われなくても、やってやる」
俺はそう呟いて、床を蹴った。拳をトー二ーの顔に向けて突き出す。
しかしそれは片手でいなされ、そのまま隙の出来た腕を掴まれた。投げ飛ばされないようにと身体をぐるりと捻り、蹴りを放って茶辺さんと距離をとる。
「強くなったじゃないか、崇裕」
茶辺さんはそう言うと、二本のナイフを内ポケットから取り出しその内の一つを俺の方へと滑らせた。
紫「……どういうつもりや」
「公平に勝負を喫しようとしているだけさ。俺もお前も、"攻撃的な能力"では無いからな」
紫「……」
俺は地面に転がったナイフを手に取る。
その時、心の中にいた憎悪に包まれた自分がどんどん抑えられなくなるのを感じた。指先が痺れるほどにナイフを握りしめ、歯を食いしばる。
ギロリと茶辺を睨み、もう一度床を蹴った。
紫「お前のせいで……ッ!!」
＿＿もう止められない。
俺はナイフを振りかざしながら、少しは頭に残っていたはずの理性を捨てた。
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作者名：@雑草 | 作成日時：2023年3月8日 12時
