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＿＿胸ポケットから落とし、足で踏みつけた小型カメラは、パキッという軽い音を立てて簡単に潰れた。
紫『……お前に一つ、聞きたいことがある』
俺がそう話しかけると、トーニーはにっこりとした顔をそのままに首を傾げた。
『なんでしょう』
紫『あんたは、十六年前のH区で起きた一家惨殺事件の関係者を、知ってるか？』
『おやおや、能力者に家族を殺害されたのですか。それはお気の毒に』
眉根を寄せて肩をあげるトー二ーに、俺は拳をぐっと握りしめ、怒りを抑えた。
紫『とぼけんな。事件現場から能力者のDNA反応も出てんだ。親父は、能力犯罪を取り締まってた。襲われる数日前に"少し厄介なことになった"とも言ってた。
複数人による複製キーでの侵入、殺害、そして完璧な逃亡。監視カメラにも決して映らない計画的な犯行は、お前らの手口とそっくりだ』
そう言葉を並べると、トー二ーは少し口を閉ざした後、またすぐににっこりと微笑んだ。
『ふむ……そこまで調べているとは天晴れ。貴方は中々良い筋の情報屋と繋がっているようですね』
紫『親父が残したデータには、もっと証拠を固める要素がある。お前らを捕まえる準備は既にしてある』
これは半分はったりだった。親父が残したデータはあるが、こいつらをしょっぴくには少し証拠に欠ける。
しかし効果はあったようだ。トー二ーは人差し指を立てて口を開いた。
『ではこうしましょう。今度、私と貴方が二人きりになった時、貴方の家族に起きた事件の全てをお教えします。そしてこれは決して口外しないこと。これでどうでしょう？』
水色の壁に、トー二ーの声が木霊する。
＿＿二人きり……いや、それで良いんだ。アイツらを俺の私情に巻き込む訳にはいかない。
俺はしばらく思案したあと、トー二ーの言葉に頷いた。
紫『……分かった。あんたらには、聞きたいことが山ほどある』
『さあ、お喋りはこれで終わりです』
紫『ああ。俺もそう言おうと思ってたところや』
＊
＿＿人気のない廃工場の中で、二つの足音が響く。
ピタ、と足を止めて、トー二ーはこちらを見ないままスーツの襟を直しつつ言葉を発した。
「さてと、ここで良いでしょう」
紫「その話し方、もう辞めたらどうや？……茶辺さん」
俺がそう言い放つと、トー二ー＿＿いや、茶辺さんはゆっくりとこっちを振り返った。そこにはこの前の余裕そうな笑みはなく、光を失った茶色い眼が、そこにあった。
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作者名：@雑草 | 作成日時：2023年3月8日 12時
