バンタン街のあの子《起》

9.アンニョン JN ページ9

【side ジン】


日本から越してきたというAさん




玄関の前でほ立ち話もなんですから、


どうぞ中へ




と言おうと思ってたところ、



「わたし、そろそろ行きます！


あの、お名前を教えてもらってもいいですか。」



少し急いでいる素ぶりが見えたので
その言葉をグッと飲み込む




『あ、ごめんなさい。申し遅れました。僕の名前はキム・ソクジンです。
それと、もう1人ルームメイトがいて、彼はミン・ユンギって言います。』


「ルームシェアをしているんですね」



『そうです。
とは言ってもお互い生活リズムが全然違うんですけどね。笑
あ、僕はそこの銀行で働いてて、ユンギは、Lilyっていう花屋の店員なんだ。
女の子の好きそうな花を作るのが上手いから今度行ってみたらどうですか？笑』


「それは気になりますね笑
今度行ってみます。
ありがとうございます、キム・ソクジンさん」




『Aさん、僕のことオッパって呼んでもいいよ笑』


少し冗談めかして言ってみたら、
彼女は驚いた顔を一瞬だけ見せ




「オッパー笑」



おちゃらけた笑顔が、やけに可愛くて


なんだか新しい妹が出来たような気分になった。



彼女の視線が下に降りる




「でも………ジンさん、彼女さんいらっしゃいますよね？笑笑 」



僕の右の薬指にはめられている指輪を指差して、
彼女は言う。




『あ、バレてた笑』



「その呼び方はこれっきりにしておきます笑」



冗談の通じる女の子は、なんていうかとても好きだ。



しばらくお互い笑い合う。




彼女はハッとした表情をして




「じゃあそろそろほんとに行きますね。
これからよろしくお願いします。」






深々とお辞儀をした。






『アンニョン』



手を振る



「アニョハセヨ」




ガチャンと玄関の閉まる音が部屋に響く。




リビングのカーテンをシャっと開ける

……あれ、あんまり天気は良くないみたいだ。


ちらっと時計に目をやる




『そろそろスーパーの開店時間だ』



・


なんだか、この街に新しい風が吹き始めた気がした。

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