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272話 ページ30

まだまだ海の上、今はどの辺りだろう。
A達が変わらぬ水平線に飽いていた時、それは現れた。

氷山だ。

それは、まさに一つの山であった。
氷でできたそれは、驚くほど巨大な姿をして、A達の目の前に現れた。
きらきらと全身に光を浴び、その存在を主張している。
白く、蒼く光るその様はもう、散々と感じていた自然の雄大さというものを、また一つ、書き換えた。

A達がその美しさに目を奪われる中、また一つ存在を主張するものが現れる。


おおおおおおん


きゅう


きゅおおおん


それは、腹の底から音を出しているような、皮膚の裏から出てくるような、そんな複雑な音の波を出していた。
およそ、人の声帯からは出てくることの無い、雄々しくも壮大な、音である。

鯨。

その圧倒的な巨体から生まれる、神とも言わんばかりの壮大さに、皆声が出なかった。
その巨大な者達は、悠々とペルセウス号の近くを泳ぎ、まるで初めて見る奇妙なモノたちを、観察しているようでもあった。

「この音…。」

Aは鯨達が出す音に聞き入っていた。

「鯨の歌、だね。」

羽京がAの横に来て言った。
その視線はA同様、群れを為して泳ぐ鯨を眺めていた。

「歌…。」

「そう、歌。」
「僕も、潜水艦に乗っている時、何度か聞いた。」
「鯨は求愛行動として、歌を歌う。」
「鯨の歌は、恋の歌だ。」

恋の歌…。
鯨も、恋をすると、歌を歌うんだ…。

かつての人も、そうだった。
歌は、自分の感情を、抑えきれない思いを伝えるための手段だった。

何だか、とても、似ていると思った。

「恋…。」
「それは、とても」
「素敵ですね…。」

目が離せない。
彼らは、どのように恋をするのだろうか。
結ばれたら、どのような気持ちになるのだろうか。

Aは、鯨がペルセウス号から離れ、自らの生息地に帰っていく姿を、その影が無くなるまで、見つめていた。



人類ではない人


3700年前、かつてのインドはクジラをそう称した。
海の人は、地上の人が一斉に活動をやめた時、どう思ったのだろう。
今まで、海にまで乗り込んでいたモノ達がいなくなり、何を考えたのだろう。
喜んだのだろうか、悲しんだのだろうか、それとも、その慈愛の籠る目の中には、ヒトの存在は、気にもとめられていなかったのだろうか。
それは、かつての海の人にしか、分からない。


クジラは何を想い、何を語ったのだろうか。

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Jane Doe(プロフ) - メウ(゜ロ゜)さん» メウさん!コメント、ありがとうございます!!えー!ドキドキしてくださってありがとうございます!彼らの魅力は青天井だと思うので、私なりに沢山出していけたらと思います!後は、原作と、アニメと、他の作者様達の作品で補完補完をお願いします笑 (2023年4月9日 9時) (レス) id: 980e4647fc (このIDを非表示/違反報告)
メウ(゜ロ゜) - 更新ありがとうございます!!だんだん夢主ちゃんへのアピールが分かりやすくなってきて、読んでいてドキドキしました!頑張ってください! (2023年4月9日 7時) (レス) id: c71eec4ba7 (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - まるさん» まるさん!コメント嬉しいです!大人組、いいですよね!了解です!直直挟んでいきますね! (2023年4月5日 6時) (レス) id: 7151efa53f (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 262話天才です...こういうやりとり待ってます...!更新頑張ってください! (2023年4月5日 0時) (レス) @page21 id: abe392a41c (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - メウさん!本当にコメントありがとうございます!もう本当に、励まされてばかりで…!!これからもよろしくお願いします! (2023年4月2日 2時) (レス) id: 7151efa53f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Jane Doe | 作成日時:2023年4月1日 10時

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