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130話 ページ31

Aは静かに泣いた。
その場の誰も、動くものはいなかった。
数秒だろうか、数分だろうか、Aは一度、深呼吸するように、俯いた。
次に顔を上げた時には、潤む目をそのままにゲンの方を向き、

「ゲンさん。」
「いくらなんでも、遅すぎます。」
「待ちくたびれましたよ。」
「でも、お姿見れて安心しました。」

「お帰りなさい。」

優しい、優しい声で
柔らかく柔らかく笑った。

ああ…俺はこれが、これが見たかった。

ゲンは僅かに瞳を滲ませ、Aにそっと近寄った。

「Aちゃん。俺ね、帰ったよ。」

「はい」

ゲンの両手が、Aの頬に触れる。
またAも確かめるようにゲンの手に触れた。

「…待った…?」

「…待ちぼうけです。」

ゲンは眉を下げ嬉しそうに目を細めると、あの時と同じように額と額を合わせた。
月明かりの元、二人の影がぼんやりと照らされている。
お互いの顔は、はっきりとは見えない。
それでも、手の震えや、声などから、相手の気持ちが見えるようだった。

「俺、俺はね、ずっと君と、話したかった。」

「はい。」

「聞いてくれる…?俺の話。」

「勿論です。」

「俺にも、聞かせて。」

「ぜひ。」

やっと、やっとだ。
帰ってこれた。君の隣に。
俺の、望んだ場所に…。






千空はその光景を、どこか映画を観るように、見ていた。

…何となく、周りの連中の話しから、分かってた。
あいつの隣は、もう確定俺のものってわけではねえ。
現代で、あいつを見つけたのは俺だ。
でも、このストーンワールドでは、何人もの人間が、あいつという一人を見つけている。
それでも、それでも、俺は…。
あいつの瞳に映るのは、俺であれと、願うんだ。


……本っ当。どうしようもねえ。





──────あきらめましたよ どうあきらめた あきらめきれぬと あきらめた

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Jane Doe(プロフ) - 樹乃さん» 樹乃さん!コメントめちゃめちゃ嬉しいです\(^o^)/ありがとうございますす♪お気持ち凄く嬉しいです!この先長いですが、ぜひこれからもお付き合い下さい。 (9月30日 11時) (レス) id: 980e4647fc (このIDを非表示/違反報告)
樹乃(プロフ) - こう...文章が凄く綺麗だと思いました(語彙力) (9月30日 9時) (レス) @page15 id: df66a330f6 (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - あ、ありがとうございます!本当に、コメント、めっちゃ励まされますね!ぜひこれからもお読みください! (2023年3月15日 10時) (レス) id: 7151efa53f (このIDを非表示/違反報告)
メウ(゜ロ゜) - 神作品にであってしまった!更新がんばってください! (2023年3月15日 10時) (レス) @page46 id: c71eec4ba7 (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - まじですか!ちょーやる気出ました!!ぜひこれからも読んでってください!! (2023年3月14日 15時) (レス) id: 7151efa53f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Jane Doe | 作成日時:2023年3月9日 3時

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