599話 ページ11
｢私達はそうでは無いぞ。｣
｢いつ死ぬともわからん世界で、いつ何かが襲ってくるかも知らない世界でそんな事をしていたら、後悔しながら死ぬだけだ。｣
｢自分の感情を出し、相手に伝えるのは酷く骨が折れる。｣
｢だが、やらねばならぬ時もあるだろう。｣
すっ
コハクは泣き声の小さくなった目の前の女の手を引いた。
いつの間にかコハクの言葉に聞き入っていたAは、その手に素直に身を委ね、やがて強く輝く青い瞳と目を合わす。
｢A。｣
｢動くか動かないかは、君の自由だ。｣
｢だがな、昔亡くなった母は言っていた。｣
｢本当に、大切な人がいるのなら。｣
｢女も、｣
｢戦わねば、ならぬ時があるのだと。｣
っ……
形の無い息が、雲を払った。
｢コハクちゃん、私ね。｣
その時、涙を流し自らの後悔を語ることしか出来なかった女の口から、初めて違う色をした声が出た。
｢私ね、やりたいことがあるの。｣
｢ああ。｣
｢どうしたらやれるのか、とか、何も分からないんだけどね。｣
｢私、嫌な事があるの。｣
｢ああ。｣
｢月に行った救世主は、その身と引き換えに、この世界に平和をもたらした、なんて。｣
｢そんな英雄譚、聞きたくもないの。｣
｢コハクちゃん、私。｣
｢怒っても、いいのかな…。｣
｢いいだろ君は、怒っても。｣
｢誰に、怒ればいい…？｣
｢千空しかいないな。｣
｢そもそもの原因はあやつだ。｣
ふふっと、思わず笑いが零れる。
あっけらかんと言ってのけたコハクの言葉は、出会った時に感じたまま、自分にとっては強く、美しかった。
こんこん
柔らかくなった雰囲気の中、戸を叩く音が聞こえる。
｢いいかしら。｣
そして、扉が開いた。
その女は、Aの前に来ると、音もなく膝をおった。
少し前傾姿勢になる。
女の肩にかかっていた髪が、さらりと落ちた。
｢南さん？｣
南はその言葉に答えず、そっとAの腫れぼったい目に手を伸ばす。
下瞼をそっと拭い、涙の跡が残る頬を優しく包んだ。
｢泣いたのね…？｣
南はふっと眉を下げ、片手でAの髪を撫でた。
｢A。｣
｢明日の朝、迎えに来るわ。｣
｢待っててね。｣
｢え!?朝って、みなみさ…!!｣
南はそう言うと、すっと立って行ってしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 148人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Jane Doe(プロフ) - 美玖さん» 見てますよー！まじでオリジナル展開凄いですね！本当に尊敬です！これからも書き方とか学ばせてください＼(^o^)／楽しみにしてます！ (1月17日 0時) (
レス) id: 980e4647fc (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - ぴーさん» 楽しみにしていてくれてありがとうございます！そして、こんな風に感想もいただけて嬉しいです!!原作の軸が無いとめっちゃ難しいなと痛感しております(>_<)でも、ぴーさんのこの励ましでやる気は十分です！本当に本当にありがとうございます＼(^o^)／ (1月17日 0時) (レス) id: 980e4647fc (このIDを非表示/違反報告)
美玖(プロフ) - Jane Doeさん» え？！わぁ、私の作品も読んで下さっていたんですね！アンケートもありがとうございます、嬉し過ぎます！なるべく数日に一度は更新を心掛けてるので私も頑張ります！見て頂いてるだけで幸せです！嬉しすぎてレスしてしまいました…！！ (1月11日 9時) (レス) id: ddcbc460f7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴー - 更新、いつも楽しみにしてます。言葉選びや、情景の描き方が好きで、しんどい時の頼りにさせてもらってます。これからの展開どうなっていくかとても楽しみです！これからも応援してます！ (1月10日 21時) (レス) @page47 id: b5feedf6c0 (このIDを非表示/違反報告)
Jane Doe(プロフ) - 美玖さん» 美玖さん！とってもとっても嬉しいコメント、本当にありがとうございます!!私、落ちアンケートがっつり投票してました！今後の展開、とても楽しみにしています！美玖さんの更新速度、凄いですよねめっちゃ尊敬してます！王道だけど、これからも追わせてください(≧∇≦) (1月7日 2時) (レス) id: 980e4647fc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Jane Doe | 作成日時：2023年11月18日 2時
