D.C. _ybym ページ18
_side ym
恋人の浮気を疑ったのは、別に今日が初めてじゃない。
…潮時だ。
もう、何回思っただろう。
それでも別れを切り出せないのは、
どうしたって薮ちゃんのことが好きだから。
シャワーを浴びに行った背中を見送りスマホを開く。
薮ちゃんから、
『家に帰った。涼介は何時頃帰ってくる?』と
LINEが来てた。
家に帰ったなんて嘘だ。
どうせまたどっかのホテルで、
俺の知らないどっかの誰かを抱いてる。
何度も何度も何度も何度も…!
いつからか、誰も居ない部屋に帰るのが怖くなって、
こうして時間を潰して帰ることが増えた。
その時間は惨めで真っ暗で、
誰かの体温を感じでもしてないとやり過ごせない。
要するにお前も当て付けのように
浮気してるんじゃないかって?全然違う。
このジュニアスイートに愛はひとかけらも落ちてない。
薮ちゃんと暮らすあのマンションにだけ、
俺の愛が虚しくなるほどに散乱している。
・
家に帰ると、後ろめたいことなんて
ひとつもないかのようなふにゃりとした笑顔で
薮ちゃんが迎えてくれた。
髪が風呂上がりのようにサッパリしてる。
きっとホテルでシャワーも浴びて帰ってきたんだ。
「どこいってたの?」
「仕事から帰ってずっとうちに居たよ」
「…嘘だ」
「ほんとだよ。涼介おいで」
ソファに座った薮ちゃんの隣にひっつく。
いつものように、GPSで何時にどこに居たか
わかるアプリを見せてくれる。
17時に仕事が終わって、スーパーに寄って、
最後の記録は18時に家。
それから位置は動いていない。
「わかった?」
「……」
「お前はホントにめんどくさいね」
薮ちゃんの腕が肩に回る。
ぎゅっと、引き寄せられた。
「でもまあ訊けばいいよ、その度教えてやるから…」
目を閉じた薮ちゃんの横顔を見て、
夜の海を覗き込んだ時のようにゾッとした。
それでいて恍惚とするくらい美しい。
肩を抱かれたまま、ソファには俺らふたりだけ、
静かに夜が明けていく。
fin.
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多分このybさんは一度も浮気してないんでしょうね…。
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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時