漸近線 _ybhk ページ20
【真昼の月】のyb side.
_side yb
気が遠くなるほどに、繰り返される波の音。
後ろから抱きすくめて、腕に伝わるひかるの首の動脈。
振り返って笑う、目を伏せて笑う顔が
途方も無く好きだ。
夕陽を照り返す海、
辺り一面染まる赤、ピンク、オレンジ、
それから迫りくるブルーグレー。
翳りゆく波打ち際。
ちょうど良い。こんな顔見せられない。
俺はもうずっと、穏やかな絶望の中で生きている。
ひかるの願いと俺の望みはギリギリ交わらない、
それに気付いてしまったのはいつだったろうか。
寄せては返す波、キリがない。
それでも繰り返す。
俺たちダメかな、ホントにダメかな?
何で別れたんだっけ、
何がダメだったんだっけ、
何で俺じゃダメなんだっけ。キリがない。
俺は何でひかるじゃないとダメなんだっけ。
ひかるがまたこっちを向く。
水平線を眺める俺の横顔に、
きっと少し寂しい思いをして、
でもそれ以上に心地良さを感じているはずだ。
こうやって、俺はひかるが求める距離感を演じてる。
もう相当上手くなった。
だってそうすれば、側に居れるんだからな。
きっと他の誰とも違う、唯一無二の俺を求めて。
そんな俺は今頭の中で、
ひかるの顎を掬ってキスを繰り返す真っ最中だ。
恋人同士だった頃の記憶を引っ張り出して、
無我夢中で唇を貪っている。
でも感触が上手く思い出せない。
擦り切れた記憶が
だんだん曖昧になってきてるのが分かる。
忘れたくなんかないのに、忘れていく。
ひかる、助けてくれ。愛してる。もうずっとだ。
陽が沈んでぼやけていく水平線。
そんなふうに、俺はお前の望む俺であり続けることが
自分にとっての幸せかどうか
もはや分からなくなってきたよ。
「夜はもう、ちょっと寒いんだな」
やぶ寒そう、と腕を優しく撫でられる。
その指先がどうしても愛しい。
だけどもし、もしひかるが俺の愛に気付いてて
知らないフリをしてるんだったら、
その分犠牲も伴うんじゃねーかな。
だってそうだろ。
俺は、何て言うか…。
幸せだった頃の記憶を代償にして、
ひかるに愛を与えている気がするんだ。
それってつまり、最後には、
俺の中に何も残らないってことだろ?
「やぶ、そろそろ戻ろっか。風邪引いちゃう」
優しく腕がほどかれて、ふたりの間がすっと冷える。
冷えていく。
ひかる。愛してる。もうずっとだ。
ひかる。
助けてくれ。
fin.
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作者名:ponpoco | 作成日時:2021年3月22日 23時