夜のバス、銀河鉄道 _ybhk+ytin

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「今日は何の絵？」

「もーうるさい、勉強しろ」

「へーへー」


今日は静かにしてみる日だ。
開いた参考書を真剣に読んでみる。

真剣な人が周りにいると集中しやすい。
自習室とおんなじ原理だな、
なんて思いながらページを捲る。


集中しすぎて、
ひかるのペンが止まっているのに気付かなかった。




「…何の勉強？」




「…ん、え？」


ひかるから話しかけてきたのはあの日以来、
これが初めてだった。


「それ」

「あ、ああ。日本史」


パタリと閉じて表紙を見せてやる。

ふーん、と言ってまたペンを走らせる。
訊いといて何だその態度は、と思うべきなのに、
ひかるから話しかけられた嬉しさで
妙に胸がいっぱいだった。


…案外構ってくれないと淋しいのかもしれない。

そんなとこもやけに可愛いく感じてニヤニヤしてたら、
勉強しろ、とネコパンチが飛んできた。





それからの俺たちはいつもこんな感じだった。


ひかるが絵を描き始めたら、
今日は何の絵？と俺が訊く。

勉強しろ、と返ってくる。


そして暫くしたら、
何の勉強？と隣から言葉が転がってくる。

その言葉を、
大事にそっと挟むように閉じて表紙を見せる。




ひかるとバスに揺られる時間は心地好い。
まだ着かないでくれ、って何度思ったか。


家のこと、学校のこと、好きなもの、たくさん話した。

今年ほとんど行けてないけど、
俺が軽音に入ってる話をした時は、
やぶの歌聴いてみたいな、と唇を尖らせた。

ひかるは俺の1個下で、部活には入らず、
放課後はほとんど毎日
あのアートスクールに行っているらしい。

制服姿を見たことがなかったから、
高校行ってないのかも、ってちょっと思ってた。

素直にそう言ったら、
私服で良い高校なんだよ、って可笑しそうに笑う。


「始業式とか、入学式とか、そーゆー式がある日は
　制服じゃないとダメなんだけどね」

「ふーん……」


この次の日から、受けてるコマが無い曜日も
予備校の自習室に通うようになった。


　
　

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