夜のバス、銀河鉄道 _ybhk+ytin

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月が明るくて、
今の時期のわりに
暖かい夜だった。

だから酔い覚ましに、と
ふらふら回り道をしながらタクシーを探してた。




『あっれー？この辺なんだけどな』

『さっきから何探してんの？』

『バンクシーだよ』


ふにゃふにゃと、回らない呂律で伊野尾が笑う。

飲み屋か何かか？と訊くと、
えっえっとまた変な笑い方をする。

ああもうだいぶ酔っ払ってんな、と
散歩はやめて大通りに向かって腕を引いた。


裕翔怒るだろうな〜…。

今日飲みに行くことを一応知らせておいたら、
飲ませすぎないでね、
気持ちは分かるけど絶対手は出さないでね、
何があっても俺んち家まで送り届けてね､の
三箇条を突き付けられた。

2と3は絶対守れる自信があったけど、
1は伊野尾のさじ加減だろ。

不可抗力だ、と思いながら
通りがかったタクシーを停める。


乗り込んで、先に裕翔の家の方向を伝えた。


『あ、みてえ。裕翔からめっちゃLINEきてる』


お前信用ないねえ〜とケラケラ笑うから、
嫌な予感がして自分のスマホを見ると、
めっちゃ電話が掛かってきてた。

きっと今頃、裕翔の中で
俺は完全に容疑者だ。冤罪です！




『すやすやすや…』

『あー待て、寝るな！伊野尾、』


こいつは酔って寝たら中々起きない。

今日は裕翔んち向かってんだから、
裕翔に担いでもらえばいい話なんだけど、
今夜はきっと容疑者の俺は、
できれば顔を合わせたくない。

何か話題…。あ、さっきの…


『さっきの、バンクシー？って何？よく行くの？』


咄嗟にさっき伊野尾が言ってた店の名前を出すと、
眠りの世界から一瞬舞い戻った伊野尾が
ケラケラ笑った。



『俺らのキューピッドなんだよ、バンクシーは』



それだけ言って、また眠りの世界に旅立ってしまった。


『あ、ちょ、おい！起きろって！』

『すやすやすや…』

『ダメだ…』


バンクシーってバーか何かで付き合ったってことか？
それともデートでよく行ったのか？

よく分かんねーな、と首を傾げてたら、
右肩に温もりが乗っかってきた。
すかさず、よいしょ、と元に戻してやる。



タクシーがスピードを上げる。

止まったままの俺とは大違いだ。



右肩が温かいのが苦手なまま、止まったままの俺とは。
右を見て、ひかるが居なくて、切なくなるから。



- 第二章 恋の話 薮の場合 - fin.

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