エイリアンズ2 _jump×jump

空気人形　_ymin ページ16

_side ym



空気人形って知ってる？
何年か前の映画。
俺は今それを思い出してる。


「じゃあ伊野尾くんと山田は幼なじみなわけだ」


ふにゃりと笑いかける薮くんに、
とろりと笑い返す伊野尾ちゃん。

気を抜けばあっけなく陥落すること、
分かっていたはずなのに。


「そう、小学校から仲良しだよね〜」


垂れ目をもっと垂れさせて、俺に向かってとろりと笑う。
そんな風に笑いかけるのは俺に向けて、だけだったのに。


昔からぽやぽやふらふらマイペース。
そんな伊野尾ちゃんが、心配で、心配で。
怖いことが起きないよう、閉じ込めて、閉じ込めて。

いつの間にか伊野尾ちゃんの周りには、
友達らしい友達が居なくなってしまっていた。


なのに今になって、
目の前の角砂糖１つ分くらいの俺の良心が疼いて、
バイト先の薮くんを紹介したりなんかして。

女の子と遊びまくってるこの人なら別に大丈夫、
なんて、角砂糖が引き連れた甘い誤算だ。


「うん。そう考えると長いよね」


どろり、と味わったことのない焦りが
胸焼けを起こして、
俺は口元だけ引っ張って笑い返す。

伊野尾ちゃんには、
いつも綺麗なものだけを見せていたかった。

だから俺は、
いつも綺麗で完璧な笑顔だけを携えていたのに。


そんな俺の不完全な笑顔に、
伊野尾ちゃんは一瞬キョトンとしたものの、
またすぐとろりと目元を溶かして角砂糖の包装紙を剥く。


「あ、茶色いんだ」


薮くんが伊野尾ちゃんの手元を見て言う。


「俺の白かったよ」

「ほえ、違うんだ」


伊野尾ちゃんがとぽんと紅茶に落とした角砂糖は茶色。

俺も瓶に手を伸ばす。
残り少ない可愛い花の絵柄の包装紙は、
指を突っ込んでも届きそうで届かない。


「はは、手、抜けなくなるぞ」


薮くんが瓶ごとひっくり返す。
敵に塩を送られる、なんて言葉がぼんやり浮かぶ。

散らばった中からひとつ、つまみあげた角砂糖は
ホワイトシュガーなのか、ブラウンシュガーなのか。

俺の心は、白なのか黒なのか。

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