見知らぬ男性 ページ12
「ねぇ、バンビ...
今夜は秋祭りの花火が上がるんだって」
.
バンビがいなくなって既に一週間以上
今日も私はあの駐車スペースに来ていて
「バンビと一緒に、見たかったな...」
ボンネットに腰掛け
目の前に広がる夜景を、ただぼんやりと眺めていた
今まで楽しみにした事などなかった
秋祭りの花火
きっとここからなら
澄んだ夜空に浮かび上がる花火が
それこそ空に咲く小さな花のように見えた事だろう
時間になったのか
鮮やかに煌めく光より
少し遅れて届く花火の音を聞きながら車に乗り込んだ
.
こんなに待っても来ないって事は
バンビに何かあった？
もしかして急激に具合が悪くなって
どこかで苦しんでいるとか？
今まで見て見ぬ振りをしていた考えを認めたら
居ても立ってもいられなくなって
下っていた坂道
急いで車を停めそこから降りると
真っ暗な森に向かって大声で叫んだ
「バンビーーッ！
どこにいるのーー！！」
こんなに大きな声を出したのは
生まれて初めて
「聞こえてたら
今すぐ出て来てよーーッ！！」
それくらい今の私は必死で
にも拘らず
誰もいない森に
吸い込まれるように消えていく、自分の声
やっぱり、いない
「バンビ...」
遠くで鳴る花火の音を再び耳にしながら
車に乗り込んだ
.
人というのは
何か大切な物を思いがけず失った時
恐らくこうやって壊れていくんだろう
これ以上ここにいたらダメだ
本当におかしくなってしまうかもしれない
もしかしたら
単純に私との時間に飽きただけかもしれないし
今ならまだ間に合う
想いを吹っ切るように
思いきりアクセルを踏み家に帰った
.
そして翌日
仕事が休みだったその日
夕方、近所から回ってきた回覧板をお隣さんに届け家に戻ると
「え...」
見知らぬ男性が、庭に停めてあった車を
腰を屈めて覗き込んでいた
間口が広い土地に建つ平屋建ての一軒家
日の当たる縁側からは庭の木々を楽しめる
所謂昔ながらの日本家屋で
その南向きの玄関の前に広がる砂利敷きの庭に、その男性はいた
「...な、何かご用ですか？」
見慣れない顔とその様子に
少し緊張しながら声を掛けた
男性との距離は、およそ3メートル
すぐに私の声に気付くと
覗いていた運転席の窓から顔を上げ
「A！(笑)」
目が合った瞬間
満面の笑みを浮かべて
嬉しそうに私の名前を呼んだ
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ami(プロフ) - まこさん» まこさん、夏目漱石のエピソード、素敵ですよね。流石偉人は違います。妄想当初はもっとムードある流れで使おうかと思ったのですが、気付いたらこんな感じに(笑)拾って頂けて嬉しかったです！ありがとうございます。引き続きお付き合い下さいね。 (2021年7月14日 17時) (
レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
まこ(プロフ) - amiさん！更新ありがとうございます。まさか。ここで大好きな夏目漱石の訳に会えるなんて泣素敵ー！これからも楽しみにしています。 (2021年7月14日 16時) (レス) id: c043fdfdb9 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - tamaさん» tamaさん、切なさ感じて頂けて嬉しいです。バンビはどこへ行ってしまったのか。今後の更新で明らかにしていきますね。お話に共感して下さり励みになります。 (2021年7月6日 15時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
tama(プロフ) - 切ない…バンビどこ行っちゃったのかな。 (2021年7月6日 0時) (レス) id: 2b3dad8b2a (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 千衣さん» 千衣さん、それはもう「人にあらず」でしょうか(笑)悪の経典は観てないですが。←更新楽しみにして下さって励みになります！ありがとうございます。 (2021年7月5日 22時) (レス) id: abcc065ec9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ami
| 作成日時：2018年1月16日 1時
