脳裏に焼き付く顔 ページ21
.
...Aさんが
出ていった
僕を一人残して
出ていった
「・・・・」
僕を、残して...
「...ッ！」
自分の置かれた状況に気付いた瞬間
ものすごい焦燥感に駆られて
「...ッ待ってAさん！」
慌てて後を追った
ガチャッ！！
玄関にあったスニーカーに
突っ掛けただけの足では思うように走れなくて
それどころか
途中で片方脱げてしまって
それでも何とか
エレベーターに乗り込むAさんの姿を
捉える事ができた
「Aさんっ...！」
数メートル先に見えるAさんを捕まえるべく
思いきり名前を呼んだ
それに、少しも応えることなく
利用階数を押す為振り返ったAさん
迷いのない手つきで素早くボタンを押すと
顔を上げ、ようやくこっちを向いた
「...ッ！」
その顔は涙でびしょ濡れで
足を止め、思わず息を飲んだ僕と目が合うと
一層泣きそうに眉を寄せた
佇む僕に向けられた
Aさんの哀しげな眼差し
「Aさ・・・」
その切なく歪んだ顔を最後に
エレベーターの扉は閉まった
「・・・・」
一瞬で脳裏に焼き付いた
悲愴感溢れるAさんの顔
それがあまりに衝撃的で
しばらくそこに、呆然と立ちすくんでしまった
...ねぇ、Aさん
僕は一体何をした？
心の底から愛して止まないAさんに
あんな顔をさせるほど
僕は一体、何を...
「・・・・」
ヨロヨロと体を翻して
覚束ない足取りで家へ帰った
.
今夜起こった出来事について
「...あ、もしもしヒロさん？朝早くすみません...もし間違ってたら僕の事軽蔑しても構わないので、教えて下さい...」
僕がまともに考えられるようになったのは
一晩経った翌日の事だった
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作者名：ami
| 作成日時：2016年3月21日 17時
