かつての一之瀬さんのように ページ6
「一之瀬...さん」
「よかった、偶然でも会えて(笑)」
「え...？」
よかった...？
「あ、突然ごめんなさい。
ちょっとあなたに聞きたい事があって」
相変わらずお人形みたいに綺麗な一之瀬さん
「何...かな？」
その大きな瞳で見つめられると
訳もなく構えてしまう
「今の人、誰？」
今の人って...
「涼さん...？」
「そう、今の男の人」
「涼さんは、同じ会社の人」
「そう...で、あの人に心変りでもしたの？」
「は？心...変わり？私が？」
突然そんな事を言われて戸惑った
「そうよ？だから最近
シム君の様子がおかしいんじゃないの？」
「えっ...」
「"え"って...」
アイツの様子がおかしい？
思いもよらない事を聞いて
思いきり眉間に皺が寄った
「その様子じゃあ、心変わりなんてしてないみたいね。ならよかった(笑)」
そう言ってにっこり笑った一之瀬さんに
今度は私が聞き返す
「チャンミンの様子がおかしいって...どういう事？」
じっと私を見つめた一之瀬さんが
ゆっくり口を開いた
「...今でも」
「えっ？」
「今でもシム君を誰にも渡したくないと思ってるなら、直接大学に確認に来る事ね」
「え...」
それって...
「じゃあ」
それだけ言って一之瀬さんは行ってしまった
"今でもシム君を誰にも渡したくないと思ってるなら"
かつて、私が一之瀬さんに言った「私の本気」
"チャンミンはあなたには渡さない！
他の誰にも絶対渡さない！！"
それをわざわざ口にするって事は
かつての一之瀬さんのように
アイツに近付く人が今現在いるって...こと？
人混みの中に消えていく一之瀬さんの後ろ姿を
不安な気持ちで追っていた私
「あ...」
ふと気が付くと
その小さな後ろ姿の向こうに
茶色い紙袋を掲げて笑う、涼さんの姿があった
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作者名：ami
| 作成日時：2015年11月10日 12時
