わかりきった事さえも ページ4
「おはよう、シム君」
「あ、おはよう」
Aさんとの旅行が2日後に迫った日の朝
たまたま正門で一緒になった一之瀬さんに
声を掛けられた
「最近、よくあの子と一緒にいるよね」
さっきまで一緒にいた
お団子頭の小さな後ろ姿を目で追う一之瀬さん
「あぁ、駅でたまたま一緒になって」
「ふぅん、たまたまね...」
「うん」
そう、今朝はホントに「たまたま」
「噂になってるよ？
シム君に新しい彼女ができたって」
「え？新しい彼女？それってセラの事？」
「え！"セラ"って...やっぱりそうなの？」
騒がしい廊下を歩きながら
一之瀬さんが驚いた顔で僕を見上げた
「ん？"やっぱり"って、どうして？」
「だって名前で...」
「あぁ、それはセラがそう呼んで欲しいって。年下だし」
「じゃあ、付き合っては...ないの？」
「うん」
「そっか...」
確かに最近
こうやって噂される程セラと一緒にいるけど
付き合ってはない
とは言え、バイトが休みの今日も
一緒にご飯に行く約束はしているけど
「じゃあ、彼女とも別れてないよね...？」
「え...」
下から窺うように
大きな瞳で僕を見つめる一之瀬さんの
その質問には一瞬間を置いて、僕は歩みを速めた
「...急がないともうチャイムが鳴る」
「あっ、シム君！」
だって、わからないから
僕とAさんは
今も「付き合ってる」と言えるのかどうか
計画していた旅行が目前に迫っているのに
Aさんからはあれから何の連絡もなくて
僕も連絡をする気になれないでいた
「...自然消滅」
「ん？」
一瞬頭を掠めた言葉に
僕の後ろを小走りでついてくる一之瀬さんが
直ぐ様反応する
「何でもない...」
「・・・・」
どうして僕はこんなに冷静でいられるんだろう
あんなにAさんが好きだったはずなのに
Aさんには新崎さんがいて
僕にはセラがいる
お互い違う人と過ごす時間が増えて
ホントにこのまま
自然消滅しちゃうのかな...
「...何だか
いつものシム君じゃないみたい」
僕の後ろで立ち止まり
ポツリ呟いた一之瀬さんの言葉は聞こえなかった
Aさんがいないと
僕は僕らしくいられない
そんなわかりきった事さえも
「予約...今さらだけどキャンセルしようかな」
Aさんを失くした「今の」僕には
わからなかった
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作者名：ami
| 作成日時：2015年11月10日 12時
