重ねたんだ ページ12
夕陽が差し込む
程よく混んだ車内
ドアの前に立つセラが
俯いていた顔を上げて僕を見た
「だから、サイテーなのは私の方です」
「え...？」
「だって今なら...チャンミンさんに近付けるかもしれない。その彼女の代わりになれるかもしれない。そう思って声を掛けたんだから」
「セラ...」
「だから、謝らないで下さい...
全部承知でやった事なんです、全部承知で」
そこまで言うと
僕を見つめるセラの瞳から
ポロッと一粒涙が溢れて
「...ぇ」
その涙に気を取られているうちに感じた
頬への、軽いキス
「セラ...？」
「私じゃ、代わりになれませんか？
チャンミンさんの彼女の代わりに...」
Aさんの代わりに...？
「チャンミンさんが彼女の事、すごく想ってるの知ってます。あの日、私達を無視するほど急いでいたのは、彼女に少しでも早く会いたかったからですよね？」
...そう、あの日
一秒でも早くAさんに会いたくて
各駅停車に文句までつけて会いに行ったんだ
「映画館で見かけたチャンミンさん...
すごく幸せそうでした」
...そう、あの日
僕は本当に幸せだったんだ
久しぶりにAさんを独り占めできて
心から幸せだった
「...ッ」
でも、Aさんは違ったんだよね
Aさんは...
「泣かないで？チャンミンさん...
寂しいなら、私を彼女の代わりにしてくれて構わないから...」
僕の涙を優しく拭うセラの手
「...ッ、Aさんっ」
その手を
今なお愛しくて堪らないAさんに重ねた
重ねたんだ...
.
「...やっぱりいいよ、セラ」
「どうして...？」
「僕にこんな事言われたくないかもしれないけど、もっと大事にして？自分を」
「ううん、いいの...
私がそうしたいの、チャンミンさんが好きだから...」
僕を、好きだから...？
「...じゃあ」
「え？」
「じゃあチャンミン...
チャンミンて、呼んで？」
Aさんみたいに
「チャン...ミン」
「...ん(笑)」
ねぇ、Aさん
やっぱり僕はサイテーだね
だってこうしてる今も
僕はAさんだけ...
Aさんだけ
ただひたすらに、想ってる
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作者名：ami
| 作成日時：2015年11月10日 12時
