暗闇の中の声 ページ49
どうやってそこまで行ったのか
記憶も定かではない中
辿り着いたAさんの職場
「いらっしゃいませ(笑)」
眩しいくらいの笑顔を向けるドアマンを見つけると
直ぐ様駆け寄った
「ここに新崎って人が働いてると思うんですが！」
「え？あ...新崎、ですか？」
突然そんな事を聞かれて
戸惑うドアマンにお構いなしに更に詰め寄る
「はい！そうです、パティシエの！」
「あ、あぁ、新崎涼...でしょうか？」
「そうです！」
「彼なら」
え...
「既に退社しておりますが
どのようなご用件でしょうか？」
彼...なら？
この人今「彼なら」って、言った？
「お客様？」
自分の耳が拾った言葉が信じられなくて
さっきまでの勢いをなくし
呆然と佇むだけになった僕の顔を彼が覗き込んだ
そんなはずない
Aさんが僕に嘘をつくなんて
そんな事あり得ない
ゴクリと唾を飲み込んで気持ちを奮い立たせる
大丈夫、大丈夫だ...
「お客様？いかがなさいましたか？」
「...あの、新崎さんは、女性...ですよね？
それとも二人...いるんですか？「新崎」という名前のパティシエは...」
震える声で何とかそう言い切った僕に
そのドアマンは答えた
「いえ。当ホテルには新崎という苗字の者は彼一人しかおりませんが」
彼がそう言った瞬間
何も見えなくなった暗闇で
-世の中、お前よりいい男なんて巨万といるんだ。いつまでもそんなで、心変わりされたって知らないからな-
そう口にする大介の声だけが
いやにはっきり聞こえてきた
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作者名：ami
| 作成日時：2015年6月27日 10時
