眠れない夜 ページ11
「やっぱり忘れられないですよね？」
幸哉の質問に、アイツは黙ったまま
「...って言っても、初めての相手は
Aだろうから忘れるも何もないか」
でも勘違いしている幸哉はそれだけ言って
「風呂入っていい？」
バスルームへ行ってしまった
どんな時でも正直なアイツ
何も言わない事が却って
「忘れられない」そう言っているようで
胸がズキズキと激しく痛んだ
「Aさん...」
「あ...まだ洗い物残ってるんだった」
私はアイツから逃げるようにキッチンに向かった
私の心は嫌になる程嫉妬でいっぱいで...
私が知らない
忘れられない思い出をアイツは持っている
アイツの腕の中を知っている人が
私以外にいる
そう思ったら胸が張り裂けそうだった
「Aさん...」
シンクの前で立ち尽くす私を
後ろからそっと抱き締めてくるアイツ
でも...
今はそれを受け止める事ができない
「ごめんね、チャンミン...
お腹が痛くなっちゃったから離してくれる？」
私は再び逃げるようにトイレへ駆け込んだ
きっとアイツは気付いている
私が避けている事
だけど今は
どうしてもアイツを受け止める事ができない
こんな感情は初めてで
自分でもどうする事もできなかった
その後もアイツと向き合う事ができなかった私は
私がお風呂から上がってくるのを
リビングのソファで
読書をしながら待っていたアイツに
「先に寝るね、おやすみ...」
一度も視線を合わせる事なくそう言って
ベッドに向かった
「Aさん...？」
ベッドに入るなりすぐに寝たふりをした私
ちゅっ...
その唇に、アイツは触れるだけのキスをした
「おやすみ...」
きっと寝たふりだって気付いているのに
それ以上何も言わないアイツからは
「何を言えばいいのかわからない」
そんな戸惑いを感じた
それでもベッドに横になるなり
すぐに後ろから優しく抱き締めてくるアイツの腕
この温もりを知ってる人が他にいる...
そう思ったらやっぱり胸が苦しくて
逃げるように体を離す私を
寝ている筈なのに
すぐに捕まえるアイツの長い腕
そんな事を何度も繰り返して
その晩はほとんど眠れなかった
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作者名：ami
| 作成日時：2013年8月7日 12時
