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「ちょっと歩こうね」
歩き出したと同時に離された手。
半歩先行くAさんの後ろ髪がさらりと揺れる。
「もうだんだん寒くなってきたね」
ふわりと浮いた心地良い声。
安心するのに応えることができないのは。
どう頑張ったって弱音しか出ないと思うから。
「めめ頑張ってるね」
振り返ったAさんは、ゆっくりと顔を覗き込んだ。
「弱音も愚痴も吐かずによく頑張ってる、えらいね」
伸びてきた手は優しく頭を撫でて。
「でもしんどくなったらいつでも言いなさい、
めめにはたくさんの味方が近くにいるでしょ」
近くにいるのにその顔は歪んで見えない。
「めめは甘え下手だよ、お兄ちゃんや弟に
言いにくいなら特別にお姉さまが聞いてあげるから
いつでも電話しておいで」
「っ、Aさん、」
絶対泣きたくなんてなかった。
Aさんに、
好きな人に涙なんて見せたくなかったのに。
「キツいね、もっと早く気づけばよかったね、
ごめんね、めめ」
涙と同時に抱いていたいろんなものまで溢れ出して、
気づけばAさんの肩に頭を預けていた。
「Aさん、寒くなってきたから
こんな薄着で外出ちゃダメだよ」
「…ん、分かった」
「俺、愚痴も言うし弱音も吐いてる」
「そうなの？よかった、でいいんだっけ、ひひ」
「お兄ちゃんや弟もいいけど、
やっぱり俺はキレイなお姉さまが一番好きだから」
「あはは、うん」
だから、
「またこうやって会いにきてもいい？」
「当たり前でしょ、かわいい弟のためなら
わたしだって会いに行くよ」
俺が回せなかった腕は、
代わりにAさんが回してくれて。
落ち着くまで、何度だって背中を撫でてくれた。
(甘え下手を分かってくれたうえで
甘やかしてくれるお姉さんが
いつかその肩書きを壊してくれますように)
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作者名：ぽんこ | 作成日時：2022年11月19日 22時
