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おはようの代わりに水を浴びせられ、朝食も用意されず、ろくに世話をしないメイド達、自分の息子を忌み嫌い、蔑ろにして無言で「一家の恥晒し」だと主張するシュルケ家の人達、舞踏会に出席させられるや否や、永遠に黒髪黒目のことについて指摘され、嫌味を言われ、病気のウイルス扱いをする他の貴族達。
全てがAの敵かと思われたが、どうやら違うらしい。
街に居ても後ろ指さされるばかりで居心地が良くない為、逃げるように図書館へ入り、人の視線から外れるように奥の方へ向かうと、そこには1人の少年が本を読んでいた。
少年は此方に気付くと驚いた顔をして立ち上がり、目から涙を流した。
慌てて彼の方へ駆け寄ると、少年は涙を流したまま、此方の身体をガッシリと掴み、しっかりと抱き締めた。
__「…ッもう……来てくれないのかと…ッ………幻滅されたのかとッ…………思いました…ッ………」
…自分がこの身体に入り込み、この身体として慣れるまでの間、この少年は、毎週金曜日いつも訪ねていた筈の友人が来なくて不安でいっぱいだったのだろうか。
_それはとても悪いことをしたな。
ゆっくりと少年の背中をさすり、落ち着かせるように、もう不安にさせないように。
『……ごめんね、最近色々と忙しくて中々来れなかった。』
「……嫌われてなかったのなら…ヒクッ……良かった……です……フッ………」
暫く少年の涙やしゃっくりが落ち着くまで背中をさすっていると、不意に少年が小刻みに震えだした。
『ど、どこか痛いのか……?』
「い、いや……出会った当初と立場が完全に逆だなって……ふふっ…」
……正直、その時の記憶は自分には無い。
それはきっと自分がこの身体に入り込んでいる異質な存在だからだろう。
だから、彼が懐かしんでいる思い出について一緒に懐かしむことも、恥ずかしがる事も出来ない。
それは割と辛いことで、割と苦しく、とても申し訳ない。
「…ふふ、すみません勝手に懐かしんじゃって。Aさんが消したいような苦い思い出でも、私にとっては貴方に出会えたきっかけの、とても特別な思い出なんですよ。」
少年は、ゆっくりと身体を離し、「お茶、Aさんの分も淹れてきますね」とその場を離れた。
__本の独特の匂いと、紅茶のいい匂いがゆっくりと鼻に入ってきた。
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作者名:ぽむ | 作成日時:2024年3月7日 6時