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パシャ





『ッ!?』






「おはようございます、シュルケ令息様」




「クスクス」


「クスクス」





急な冷たさを感じ、無意識に飛び跳ね起きると、数名のメイドがニヤニヤと此方を見つめていた。





先頭に立つメイドの手には木の棒のようなスティックが握られており、先端には雫が付いている。








__嗚呼、またか。








俺はまだクスクスと笑っているメイドが部屋から出ていくのを黙って見送った。









メイドからはストレス発散の道具かのような扱いを受け、家族からも蔑ろにされているこの"シュルケ・A"という男、






実は乙女ゲームの悪役令息なのである。








というのも自分自身がこの世界に来たのは数週間前。





齢28という程々に若い状態で命を落とした。





生前の自分は、台風によって堤防が決壊し、流れてきた川の水によって呆気なく溺死した。






そして、目が覚めるとなんとビックリそこは生前黄泉の国と謳われていた場所ではなく、西洋の雰囲気を帯びた割と広めの部屋だった。






必要最低限の家具しか設置されておらず、少し埃っぽい。






クローゼットを開くと、お世辞にもキレイとは言えない、だがとても丁寧に畳んだのが分かる衣類がギューギュー詰めにされていた。









まともに掃除されていない部屋、生活感のない家具の量、まるで子供がやったかのような洗濯物。









「…あれ〜?もう起きてるんですか、面白くない。」









メイド、と言われるような格好をした数人が扉を蹴り飛ばして入ってくる。







一般常識的にはメイドの立場が下と思われるのだが………。






「起きたんならさっさと着替えてどっか行ってください、目障りです。」







自分……否、この身体の持ち主自身をバカにするような口調で命令してくるメイド。








………嗚呼、めんどくさい事になってしまったかもしれない。










_____転生というものを信じるだろうか。







否、信じる筈が無い。








ただ、生前生きた世界とは全く異なる世界で、自分は数週間分の時を過ごした。








数週間も生きていれば、心というものは無意識に慣れてしまうもので、自分自身、この身体で生きていくことに抵抗をしなくなっていた。

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作者名:ぽむ | 作成日時:2024年3月7日 6時

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