復讐の狼

1 F ページ2

「人間の村には近づいてはいけない」

小さい頃からそう言われていた。
人間に近づけば殺される。そう教わっていたから。


「あれ…ここ、さっきも通った…」

初めて1人での狩りの帰り道。
獲物を追いかけてかなり遠くまで走ってしまい、帰り道がわからなくなってしまった。

暗い森の中をとぼとぼと歩けば、陽の当たる場所に出た。
そこはさっきまでの暗くてジメジメした森道とは違って色とりどりの花が咲き誇り、蝶々達が飛び舞っている。綺麗だ……幼心にそう思った。

ここで一休みしていこうかな。
草の上に寝そべろうとした時、何処からか歌が聞こえた。
あまりにも綺麗な声で誘われるように声のする方に行けば赤い頭巾を被った女の子が丸太の上に座って歌っていた。

人間だ。

そう思った途端に背筋が凍りつくようだった。
幸い人間は俺に気づいていない。このまま音を立てずに立ち去ればいい。
そっと後ろに下がろうとするも、俺の足は恐怖に震えて思うように動いてくれなかった。

パキッ

やっとの思いで後ずさるも木の枝を踏んで音を出してしまった。

「誰…？」

女の子が振り返る。
逃げろ……逃げろ……
そう思うのに足がすくんで動かない。
もうダメだ。俺は殺されるんだろう。
あきらめて目をつぶった。
それでもいつまで経っても痛みは襲ってこない。体を切り裂かれるわけでも撃たれるわけでもない。それどころか女の子は俺の頭を撫で始めたのだ。

「ふふっ。あなたもこの場所がお気に入りなの？」

びっくりして目を開ければクリクリの丸い目が俺の目の前にあった。

「あなた、とてもカッコイイ顔をしてるのね？わんこさん。まるでおじさんの家の猟犬みたい！」

わしゃわしゃと俺の毛を撫でる女の子はどうやら俺の事を犬だと思っているようだった。
それから女の子はずっと俺に抱きつくように毛を撫でて、ずっと喋っていた。

「もうこんな時間…帰らなきゃ……ねぇ、わんこさん。明日もここに来てお喋りしてくれるかしら…」

別れ際、なんだか悲しそうな目をする女の子にそんな顔をさせたくなくて俺は女の子の顔をペロッと舐めた。

「んふふ。ありがとう！わんこさんまた明日ね」

駆け足で帰っていく女の子の後ろ姿を見ながら、俺はなんだか不思議な気持ちになっていた。
もっと一緒に居たい。そう思った。

もしかして、人間ってみんなが言うみたいに悪いヤツじゃないのかも。

そんなことを思いながら俺も群れの元に戻った。

明日もまたここに行かなきゃ。

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